深を知る雨
「て、ていうか楓、薫と話すようになったんだな。やっぱ、薫と里緒が話するようになったから?」
「……まだ完全に許したってわけじゃないけど。ハグもしてないしね」
「だーかーら、それは無理だっつってんだろうが!話すのが限界だ、あいつとは。下手に触ったらまた暴走すんぞ」
「お好み焼きパーティーでハグするってのはどう?あたしや遊がいる前なら里緒も安心でしょ」
「ふ、ざ、け、ん、な!」
……やっぱり里緒も参加するのか。大丈夫かなー?私。
場合によっちゃこのメンツに隠してることの一部がバレちゃうかもしんない。里緒がどこまで分かってるのか分からないから、何とも言えないけど。
「あ、そうだ。ねぇ、雪乃も誘っていいかしら?」
「ええけど、俺らはあの嬢さんとは面識無いからなぁ」
「別にいいじゃない、これから知り合えば。雪乃、Sランク寮じゃ楽しくないみたいだし、ちょっとは楽しい思いさせてあげたいの。姉として」
うんうんそうだよな、姉として妹には嫌な思いばかりさせたくはないよな、うんうん。………うん?
「あ、姉!?」
「え?」
「姉って何!?sisterの姉!?」
「ああ、あんたには言ってなかったっけ。あたしと雪乃は義理の姉妹みたいなもんよ」
「ど、どういうこと?」
「雪乃の家って特殊でね、生まれた子供を必ず他の家に預けるの。雪乃はあたしの父親が預かって育ててた。って言ってもあたしのいる家とは別の家でだけどね。あたしの父親、いくつか家持ってるから」
そういえば、小雪が同じようなことを言っていた。
いやでも楓と義理の姉妹だなんて………知り合いだったのはそういうこと?
ああっ複雑な人間関係に付いていけない!
「じゃ、じゃあさ!小雪も誘っていい?」
「え?雪乃のお兄さん?」
「あの兄妹、あんま喋ってないみたいだしさ。家族なのにそういうの……寂しいじゃん?」
「あたしはいいけど……里緒はどうかしらね。知らない男ってなると」
「ええんちゃうの、別に。訓練でも知らん男は周りにようさんおるわけやし、慣れさせるっちゅう意味でもええ機会やろ。リハビリやリハビリ」
「だよな!早速伝えてくる!」
小雪んとこはこれから行く予定だったしちょうどいい。
しかし、楓の声が走り出そうとする私を止めた。
「あ、待って。あたし達、あんたの連絡先まだ聞いてない」
「………え」
連絡先は必要最低限の相手にしか教えていない。
今教えているのはティエンと泰久、一也くらい。小雪にも教えてない。
教えているのは必要最低限の相手―――戦争において、いつか頼るかもしれないと思っている相手だけ。
「……あー、ごめん、今端末修理に出してるんだ」
こんなことを一線と呼ぶのは変かもしれないが、私にとって相手からこちらにいつでも連絡してこれる状態にさせないことは、ある種のラインだった。
だから、嘘を吐いた。
「そう?じゃあまた今度ね」
この時私の嘘に気付いたのは―――多分、遊だけだった。