深を知る雨
少し遅れてしまったが、小雪は「おそーい」なんて緩く笑って私を部屋に入れてくれた。小雪の部屋のテーブルには既に晩御飯が並べられていて、待っていてくれたことを知る。
「ごめん小雪、遅れちゃって。……あ、あとさ!今度一緒にAランク寮行かない?」
「え?何で?」
「お好み焼きパーティーするんだって」
「……行かない。Aランクの奴らのこと知らないし」
「えー、でもでも、雪乃も来るよ?」
“雪乃”という単語を出した途端、小雪の表情が曇った。それは、雪乃に小雪の話題を出した時、雪乃がした表情と似ていた。
「なら、尚更行かない」
吐き捨てるように言った小雪は、私から視線を逸らして椅子に座る。
「絶対楽しいよ?行こうよ」
「俺は行かない」
「むーー」
「そんな顔してもダメ」
「雪乃だって喜ぶと思うんだけどなー」
「この世界はね。どう足掻いたってうまくやっていけない家族の方が多いんだよ」
そう言われると、さすがにそれ以上何も言えなくなった。
「……そっか」
遠慮がちに返事して、食事に手を付ける。余所の家のことなのに言及しすぎた。これ以上はやめとこう。
暫しの沈黙の後、小雪が口を開く。
「哀は、行きたいの?」
「へ?」
「俺と。お好み焼き食べたい?」
「……うん。でも、無理にとは…」
「分かった」
「え!?」
「行くよ。いつ?」
「いつかはまだ、聞いてないけど……え、いいの?」
「良くはないけど。哀は行きたいんでしょ」
きゅーん、と胸が締め付けられる感じがしてテンションが上がる。
「小雪優しい!好き!」
私の言葉にふはっと柔らかく笑った小雪は、その夜私を抱かなかった。