深を知る雨

2200.12.31



 《4:00 Aランク寮前》


―――あっという間に大晦日。

今日の午後6時、Aランク寮に集まって食事をすることになっている。当日になっても銭湯行きを断る上手い言い訳を思い付かなかった私は、最終手段、楓に相談するという手に出た。

「おはよー楓!」

Aランクで1番早起きらしい楓は、今日も散歩のために外へ出てきていた。

「おはよう。今日も待ち伏せ?」
「今日もって何!?今まで待ち伏せしたことあった!?」
「前もこの辺うろうろしてたじゃない」
「あれは待ち伏せとかじゃなくて、……いや待ち伏せなのか……?」

楓自分に問い掛ける私を置いて散歩に出かけようとするので、慌ててその後を付いていく。

「あ、あのさ楓。遊たちが銭湯行くとか言ってるじゃん?それ楓の力でどうにかできない?楓が遊たちに“行かないで、お願い……”って節目がちにおねだりしたら一発だと思うんだけど」
「あんたあたしのキャラ崩壊させる気?そんなこと死んでも言わないわよ」
「ああああじゃあどうすればいいの!?」
「そんなに断れない空気だったの?ご飯だけ食べて帰ることにすればよかったじゃない」
「だって遊怖いんだもん!どう答えたって逃がしてくれなさそうな雰囲気っていうか」
「……もしかして、疑ってるのかもね。あんたが女じゃないかって」
「……」
「あたしは関係ないわよ。以前も言ったけど、遊の前であんたのこと考えたりしない。バレたとしたらあんたの落ち度」

……だとしたら、いつ疑われるような材料を与えてしまったのだろう。そういえば手首を握られて、どこもかしこも女みたいだとか言われたような気がする。ゆ、遊ってもしかして手首触るだけで女か男か分かんの!?勝てねぇ…!

「あれ買えば?性別転換ドリンク」

楓の言葉に何だそれは、と首を傾げると、わざわざ説明してもらえた。

「性別転換能力者の能力を液体にして売ってるやつ。日本じゃまだ販売されてないけど、海外だと買えるらしいわよ。最近流行ってるわ。超まずいらしいけど」

すぐに“ 性転換 ドリンク ”で検索すると、性転換して自撮りする若者たちの写真が沢山出てきた。

ふむふむ……声、体格そのままで性転換できるものもあるらしい。使用後高熱が出ることもあるらしいが、死ぬほどではないようだ。時間制限があり、すぐ元の性別に戻るものもあれば、最長で1日ずっとその性別でいられるものもある。

初めてで長い間男になる方を飲むのは気分が悪くなるのでおすすめしない、とも書いてある。まずはこの30分間のやつにしよう、と私は海外の通販サイトを使い速達で注文した。

効果は飲んでから20分後に現れるという。Aランク寮に持っていって、トイレに行くとでも言って銭湯へ行く20分前にこれを飲めばいいだろう。

「ありがとう楓!どうにかなりそう」
「……なるかしらね」
「ちょっと!?不穏なこと言わないで!?」
「だって相手はあの遊でしょ。どこまで誤魔化しきれるか……」

あの遊、と言われても、私は遊がどのくらい疑い深いのか知らない。以前よりは知ることができていると思うけれども、それでも当然知らないことの方が多い。

「楓って遊のことよく分かってるんだね」
「まぁ、もう何年も一緒にいるしね」

どこまで踏み込んでいいのかよく分からないが、それでも気になってしまった。

いつから楓たちは仲良くなったのか。どんな風に知り合ったのか。個人的にAランクのみんなのことを知りたいと感じる自分がいることに少し驚く。



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