深を知る雨


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昼食を終えた私は、薫と言い争いながら食堂を出た。

この後はAランク寮へ行く予定なのだが―――タイミング悪く、ここではあまり会いたくなかった人間が前から歩いてきているのに気付いた。

一体どんな手入れをしたらそんなサラサラになるんだよって言いたくなる、一応女である私よりもサラサラな黒髪、モデル並みにスラッとした身体、そのくせ見た目よりがっしりしていて軍服が似合う、男らしいと言うより女性的な綺麗さを感じさせる顔立ち―――間違いない、泰久だ。

その隣を歩いているのが一也。一也には一応前もって伝えておいたのだからいいとして、泰久には殆ど無断で超能力部隊に入ったようなもの。事後報告はしておいたが、やはり何度会っても気まずい。

気付いていないふりをして通り過ぎようとした私に、擦れ違い様テレパシーを飛ばしてくる泰久。


 [後で来い]
 […また?暫く行くのやめるって昨日言ったじゃん。誰にも気付かれずに行くのって結構大変なんだよ?]
 [いいから、来い]


そこで有効範囲を出たのか、遠隔精神反応は途絶えた。


「お前、東宮と知り合いなのか?」


テレパシーで話したにも関わらず、薫にそんな質問をされたから一瞬焦る。注目されないために泰久と幼なじみであることは隠すことになっているから。


「え?何で?」
「いや、あいつがお前のこと見てたから」


ああ、なるほど……。それだけか。


私は今気付いたという風に泰久の後ろ姿を振り返り、


「知り合いなわけないだろ、Sランク様と」


当然の答えを返した。




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