深を知る雨

 《20:00 銭湯》


性別転換ドリンクを飲むと本当に体の形が変わった。生殖機能まではないらしいが、ぶら下がるもんはぶら下がってる。男の体になってから男用の下着を持っていないことに気付き焦って楓を呼んだ私に、楓はとんでもないことを言った。「佳祐の下着、確かまだこの寮にあるから持ってくるわ」と。

佳祐が誰かと聞くと、薫のお兄さんだと。

それは駄目じゃん!?遺品じゃん!?あとちんことちんこが間接キスするよ!?いいの!?

なんてことを聞く私に、楓は「るっさいわね!洗ってんだからただの布よ!」と実に楓らしい返事と共に佳祐さんの下着を投げ付けてきた。


そんなこんなで下着についてはどうにかなったのだが、これからが問題だ。ちゃっちゃと遊に男の体を見せつけて疑いを晴らし、ちゃっちゃと体洗ってちゃっちゃと出なければ。30分しかないのだ。

銭湯にはちらほら人がいたが、彼らは薫が入ってきたことで少し離れた場所へと移動した。やっぱ薫ビビられてんだなぁ。

さっさと体を洗おうとした時、私は自分の体の異変に気付いた。おそるおそる我が下半身にぶら下がっているものをみると――ちょっと反応している…!

どういうことだ、熱いとこうなるの?風呂の熱気が原因?

皆こんなもんなのかな、私だけだったら何か恥ずかしい。

確認したくなってきて、私はちらりと2m先の里緒の物に視線を落とした。

……!!!

私は慌てて薫に近付き、小声で話し掛ける。

「あ、あのさ、薫……」

私が真剣な表情をしているせいか、薫も真剣な表情で耳を傾けてくれた。

「里緒のアレ、でかいな」
「どこに注目してんだてめぇは」

結構な力で頭を叩かれ、危うく滑るところだった。

いやしかしこの状態でもあれってことは、フルで何センチくらいなんだろう……。

巨根一也と同じくらいになるんじゃなかろうか。おお怖い怖い。あんなんになるもんぶら下げて平然と普段生活してるんだもんな………。

里緒のあれに衝撃を受けたこと以外は予定通りに事が進み、髪、頭、顔を洗った私は湯に入る。

私は洗うのが遅い方なようで、先にみんな入っていた。きちんと2mほど距離を保ちつつもとりあえず里緒の隣にいく。里緒からしてみれば“常に2mの距離にいる変な男”だろうが、仲良くなりたいのだからせめて里緒と会話できる程度の距離にはいたい。

何か話そうと思ってふと時計を見ると、既に20分が経過していた。

会話をするどころではないと思い、里緒に話し掛けるのはまた今度にして上がろうとした時―――ガシッと、私の肩を掴んだのは遊だった。

「まぁ待てや。そんなんで上がるつもりか?」

ひっ…。思わず短い悲鳴が出そうになったが、何とか抑える。

「こういうのは何分入ったままでおれるかが勝負やで」
「………そ、そうか……」

私の笑顔大丈夫ですかね。引き攣ってないですかね。

ゆっくりした優しい口調ではあるが、肩に置かれた手はその声に相応しくないしっかりした力で私の体を押さえている。

……これはもう怪しまれてるだろ!楓の言う通り、絶対怪しまれてる!

そのうえ折角男としての裸を見せたのに、まだ疑いは晴れていない。

私はへらっと作り笑いをしてずずず…と再び湯の中に肩まで浸かった。

よく考えれば、性別転換ドリンクは流行りの飲み物らしいし、遊が存在を知っていてもおかしくはないのだ。

くそ、余裕を持って2時間くらいのにしとけばよかった。

初めて飲むもんだからビビって1番効果弱そうなのにしたけど、30分は着替える時間も考慮すると短かったような気もする。


何とかうまい理由をつけて上がらねば、とあれこれ考えて5分ほどした時、―――予想外にも遊が1番最初に出て行った。

何分入ってられるかが勝負とか言ってお前が1番先に出んのかよ!私より先に入ってたから私よりは長く入ってたんだろうけど!

遊が出ると同時に出るのも不自然だと思い、遊が出たおよそ1分後に立ち上がる。



「あいつ何か無口だったな」
「どうせならずっと黙っとけばいい」

後ろから薫と里緒の会話が聞こえてきたが、構っている暇はない。




< 80 / 115 >

この作品をシェア

pagetop