深を知る雨


「最近の若いもんは物騒だねぇ。おいしいもん腹一杯食って機嫌直しな」

いつの間に近付いてきていたのか、千代さんがお盆に味噌汁を乗せて傍に立っている。

ハッとして椅子に座り直した。人んちの店で殺しなんてやっちゃいけないわ。

千代さんは味噌汁とご飯、サラダをテーブルに並べ、また奥へと戻っていった。

一見普通の朝食に見えるが……味の方はどうだろうか。

遊が「いただきます」と言って食べ始めるので、私も「いただきます」と言って味噌汁を吸った。

遊がちゃんといただきますを言うことに少し驚いたけど、おかげで私も久しぶりにいただきますを言った気がする。

「……おいしい」
「せやろ?千代さんの作る飯はどんなロボットが作るもんよりうまいからなぁ」
「ご飯もうまい!噛みごたえちょうどいい!味噌汁の汁ってどうやったらこんなおいしくなるの!?こんなの初めて!うおおおおおお」
「ぶっ」
「何で笑うの!?」
「さっきまでとは別人やなぁ、と思って」
「……さっきはちょっと、ムカついて」
「ムカつかれただけで殺されかけたらたまらんわ」
「じゃあムカつかせないでよ!私に深入りしたらやばいんだからね!仲間が遊を潰しにくるんだからね!」
「何の仲間やねん」
「実は私は世界征服を目指す闇の組織のボスの娘で……」
「はいはい」

千代さんのウルトラスーパーデリシャスなご飯のおかげで場が和み、遊も私もお互いを探り合うのはやめた。

遊の身長が何メートルだとか、このたなべれすとらんが普段も営業してたのは戦前だとか、千代さんは夫に先立たれた後も生きる希望を失わず婚活してるだとか、他愛ない話が続いた。



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