深を知る雨




「……な、んで」
「哀のことまで汚した。哀のことは、本当に大事な友達だと思ってたんだよ。そりゃ最初は完全に雪乃の代わりにしようとしてたけど、哀、全然雪乃と性格違うんだもん。一緒にいるうちに哀のペースに飲まれていって、哀といるのが純粋に楽しいって思えてた」
「……」
「その流れが変わったのは先月久しぶりに義母さんの見舞いに行った後からだ。義母さんに罵られるのは慣れてたはずなんだけど、ちょうどその時哀が俺から離れようとしててさ。義母さんと会った後1人でいるってのが、思ってたより応えて。訓練にも集中できなくて腹に刺さってさ。あんな怪我くらいすぐにでも能力で治せたんだけど、わざとそうしなかったのは……哀が来てくれるかなって期待してたからなんだ」
「……」
「そしたら、本当に来た。哀のこと抱いたのは、改めて雪乃の代わりにしてやろうとしたのは、…ちょっとムカついてたからなのかもしれない。何で俺から離れるのって。何で自分から近付いてきたくせに俺を置いていくのって。そんなことするなら大事にしてやらない、って」
「……それは私が悪い。私が悪いから、友達やめるとか言わないでよ」
「哀は優しいね。でも、これ以上の罪悪感は抱えたくない。勝手でごめん。もう俺に近付かないで。哀の性別をバラすつもりは最初からないから、心配しないでいいよ」

小雪は立ち上がって残飯をゴミ箱に捨て、お皿をロボットに手渡す。

その背中が、私を拒絶してるように見えた。あんなに私のことを抱きしめて、キスをして、笑いかけてくれた相手が、今私に背を向けている。

小雪と私が仲良くなったのは、休憩所で私が小雪に話し掛けたのがきっかけだ。今思えばあの時小雪が気になったのは、小雪がいつも1人で煙草を吸ってたからってだけじゃなく、どこか苦しそうな表情をしていたからかもしれない。この人を笑顔にしたいって思ったからかもしれない。

「………私の誕生日……祝ってくれるっつったじゃん」

ぼやけた視界に映る小雪が、私の方を振り返ってぎょっとするのが分かった。

「……私、小雪がこの部隊に来て初めての友達だし」
「……」
「こう見えて結構遊んでるから、体の関係を持つことに関しては、小雪ほど重大に感じてないし。手を繋ぐノリで体の関係持てるし。小雪は雪乃と手を繋ぐシミュレーションとして私と手を繋いだ、それだけのことだよ?私にとっては」
「……うん」
「…そんなんで、近付くなとか言われても、困る」
「……うん。ごめん」

瞬きすると同時に涙が零れ落ちた私を、小雪が掻き抱く。

「泣かないで。…哀に泣かれるとどうしていいか分からない」
「友達でいようって言えばいいんだよ!馬鹿!」
「……うん、友達でいよう」
「ううっ……うぐっ……ぐすっ……」
「ご、ごめんってば。泣かないで」

私が本格的に泣き始めるもんだから、小雪は焦った様子で背中をさすってくる。

「うわああああああん小雪にいじめられたぁぁぁぁ」
「えぇ!?」
「びえええええええええええん」
「ごめん、ほんとに!何でもするから」
「何でも?」
「何でもっていうか……そりゃできることは限られてるけど」
「びえええええええええええんぶええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
「わ、分かった!何でもする!できなくてもやる!」
「じゃあずっと友達でいて」
「……うん。いるよ」
「誕生日祝ってね」
「うん。祝う」
「約束だよ?」

小雪が頷いたのが分かると、私は小雪の腕から逃れてするりと立ち上がり、涙を拭いて振り返った。

「小雪、大好き!」
「……俺もだよ」

小雪は泣きそうな声で言い、微苦笑する。その目はちゃんと私の目を見てる。

―――私と小雪が本当の意味で友達になった瞬間だった。




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