深を知る雨



と。

唐突に男の後ろのドアが開き、下っ端っぽい人が入ってきた。

「ボス!この建物のあちこちで火災が発生しています!」
「はあ?……あの2人が来るには早すぎるな。一体何が原因?」
「分かりません!」
「分からない?」
「機械が突然爆発したと……」

下っ端っぽい人に続いて、1人の男が室内に入ってきた。灰色の瞳と焦げ茶色のふわっとした短髪――絶世の美形だ。

「通信回線からの攻撃っぽいわよ~?」

………イタリィ人のオネエ!初めて見た!新鮮!

オネエはその灰色の瞳を私に向け、次に男に向けた。

「ていうかルフィーノ、何手錠外しちゃってんのよ?そいつも能力者の可能性あるんでしょ?自由にさせたら危険じゃない?」
「それがねえ。この子、全く逃げる素振り見せないんだよねえ」
「へぇ、ムカつく小娘ね。もっと焦った表情した方が可愛いげあるわよ」

謎のアドバイスをされてしまったが、能力使い放題なこの状況ならいつでも逃げられるから、逃げる前にこっちの情報を少しは集めようと大人しくしているのだ。

イタリィは本当に超能力研究が遅れているらしい。超能力を抑制する物すら開発されていないのか、こっちに何もしてこない。

「とりあえず君は、これ以上被害が無いように対策してくれる?」
「はっ」

下っ端っぽい人は男に命令されて走って部屋を出て行った。

うーん、問題起こせばこの男がどっか行ってくれるかと思ったんだけど……そんなに焦ってないみたい。そりゃこの建物も火災対策くらいしてるか。

できれば泰久たちが来る前に建物の外に出たいから、あまり悠長にはしてられない。

ウィーン、と音がして次に部屋に入ってきたのはこの建物の警備ロボ。怪しい侵入者等を攻撃する、セキュリティの一種なんだけど……乗っ取られると逆に脅威なんだよねぇ。

「あら、何で警備ロボがここに?誤作動かしらぁ」

オネエは不思議そうな顔をして警備ロボを戻そうと屈む。

その瞬間警備ロボは――オネエの頭を殴った。オネエは床に倒れ込み動かなくなる。

警備ロボは次に男の方へ向かおうとするが、異常を察知した男はどこかへ瞬間移動してしまった。

私を連れていかないってことは、おそらく自分以外の生物を移動させることができないタイプのテレポーターなのだろう。それか、わざと泳がせるつもりか。

倒れているオネエの服のポケットから端末を取り出し、無理矢理画面を開いて建物のマップに目を通す。


―――さて、逃げるか。



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