深を知る雨
監視カメラはさっき乗っ取ったし、私が通っても誰も気付かない。
部屋を出ると、壁に12という数字が刻まれていた。どうやらここは12階らしい。エレベーターが見当たらないってことは、そう簡単には逃げられないようにしてあるんだろう。
オウ゛ラの本部かもって思ってたけど、多分ここは怪しい人間の取り調べをするためだけにある建物だ。
いやー、まさかこんな場所に来れるとは。自分から来ようとしたわけではないとはいえ、めっけ物だ。
オネエの端末の情報からすると、あのオネエの名前はエフィジオ・ヴァレンテで、Aランク発火能力者。私を捕まえた男の名前はルフィーノ・カッペリーニ、Bランク瞬間移動能力者。
予想通り生物は移動させられないし直接触れた物体しか移動させられないという、制限の多いタイプだ。
しかしさすがBランクなだけあって、一部に触れさえしていればビルでも一気に移動させられる強力な力の持ち主。
この2人はどうやらオウ゛ラの能力者取り締まり役、結構なお偉いさんらしい。
イタリィにA、Bランク能力者はほんの数人しかいないだろうし、能力を買われたのだろう。
階段を使って何とか1階にたどり着いた私は、道を間違えないようにしながら出口へと向かう。
広すぎてマップが無いと迷うよ、こんなとこ。順調に1階へ来られたはいいけど……なーんか、嫌な予感するなぁ。
ふと背後から熱気を感じ、振り返ると―――火がそこまで迫ってきていた。咄嗟に避けるが髪が一部燃えてしまう。
火がやってくる先を見れば―――
「やってくれたじゃねぇかクソ女!!」
うわわわわわ、あのオネエの人ブチ切れてるよ!?ブチ切れて口調も変わってるよ!?てかあんだけがっつり叩かれといて回復早すぎでしょ!
寸前で急所を外したか……凄い対応の速さだな。
慌てて逃げようとしたが、その前に次の火が襲ってくる。
無理だ、避けられない。
泰久や一也にも隠してる能力がいくつかあるが、その中の1つを使ってしまうしかない。
―――防御能力。
対応できる能力の種類は限られているが、こちらへ向かってくる火から自分をある程度守ることはできる。
火を防ぎながら、走ってエフィジオと距離を置く。火の勢いが強くなりすぎたら防御能力では防げない。