みんなだまされてますっ!~イケメン達の裏の顔はめんどくさい
「うん。フルーツタルトを作るんだけどね、生地を一晩冷蔵庫で寝かせるの」
「へぇ」
「そうすると生地が使いやすくなって、うまく仕上がりやすいんだ。だから今日はもうケーキ作りは終わりだった…ごめんね」
兎山くんのことだから、少しきつい言葉が飛んでくるかな?と警戒していたのだけれど、まったくそんなことはなかった。
「そう。じゃあまた明日スケッチさせて」
「う、うん、わかった」
「ていうかなにその顔?僕にきついことでも言われると思った?」
思ったことが顔に出ちゃってたのかな?兎山くんは私の顔をじとっと見つめた。
「えっ…い、いやぁ…」
ずばりその通りなのだけれど、私はそーっと視線を外す。
兎山くんは浅くため息をついた。
「別に、だれにだってきついわけじゃないし。結人がいつもだらしないから気になるだけ」
私は「あはは…」と苦笑する。
雪城先輩は家ではだらだらしていて、それをたしなめるのはいつも兎山くんだった。
「僕の邪魔をしないなら、別に言うことないし」
邪魔、というのはきっと、絵を描くことの邪魔だ。
兎山くんは部屋にこもって絵を描いていることが多いみたいで、作業の邪魔をしないで、ということだ。
「うん、もちろん迷惑になるようなことはしないよ」
私の言葉に、兎山くんは満足したようにふんっと鼻を鳴らした。
「そうして」
「それじゃあまた作るときに呼んで」と言って、兎山くんはキッチンを出て行った。
兎山くんは女の子みたいなかわいらしい見た目に反して、ものすごくズバズバとものを言う。
芸術家さんだから、きっととてもストイックなのだと思うけど、あまりに学園の彼とは違い過ぎてびっくりする。
学園内での兎山くんはかわいらしくて、おどおどとした小動物みたいな子だと思ったんだけど…。
「ひとは見かけによらない、ってやつかな…?」
私はそんなことを思いながら、意識を明日のタルトへと戻していった。