神殺しのクロノスタシス1
その日の夜。

私達は、この事件について捜査しているという警察庁本部に潜入した。

潜入とは言っても、真正面から堂々と入った。

というのも。

「…ふふふ。私が自ら編み出した、この透明魔法が役に立ったね」

魔法をかけた相手を透明にし、不可視化する魔法である。

こんな画期的な魔法なのに、羽久は、

「最低な魔法作ってるよな、お前…」

ぽつりとそう呟いた。酷い。

そりゃ確かに犯罪向きの魔法かもしれないけど。

今は役に立ってるんだから良いじゃない。

「…それと、折角潜入したのは良いけどさ」

「んー?」

「本当にこんなところまで来て、何も収穫なかったらどうすんの?」

「その可能性はあるね」

何故、こんなに捜査に手間取っているのか。

それの理由はただ一つ。相手が魔導師だからだ。

これが普通の人間の犯行なら、もうとっくに捕まってるだろう。

現場に残ってる毛髪とか衣類の繊維とか、監視カメラの映像や目撃者の情報提供によって。

でも、犯人は人間ではない。手練れの魔導師なのだ。

だから、その場に証拠をほとんど残さずに犯罪をやり遂げてしまう。

そのせいで極端に証拠が少なく、なかなか足取りが掴めない。

勿論、全く証拠がない訳ではないだろう。

せめてそれだけでも、捜査記録に残っていて欲しいのだが…。

「お邪魔しまーす…」

私達は、厳重に鍵のかけられた部屋に、そっと潜入した。

「全くとんでもない犯罪者だよ…。教師失格だな…」

それを言わないでください。

非常事態だから。

この部屋の何処かに捜査資料があれば良いのだが…。

「うーん…。どれかな…」

パソコンを弄って中を見れば、捜査資料がまとめてあるかもしれないが。

さすがにパソコンを弄ると履歴が残るので、出来れば紙の資料でお願いしたい。

あると思うのだが…。

十分ほど探し回った後で。

「…シルナ。これじゃない?」

「ん?」

羽久は、『女児連続殺人事件』というラベルが貼られた、分厚いファイルを手にしていた。

あっ、それっぽいそれっぽい。

「ナイスだよ羽久。早速調べてみよう」

「はぁ…。何で俺がこんな犯罪の片棒を…」

「大丈夫大丈夫。これも平和の為だよ」

そう言い訳して、私はファイルを開いてみた。
< 124 / 669 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop