神殺しのクロノスタシス1

sideシルナ

───────…声を震わせながら私に訴える彼は、まるで小さな子供のようだった。

彼の時間は、止まったままなのだ。

化け物となって、家族や恩人を殺してしまったその日から…。

「…そうだね。君は、何も間違っていない」

一人を供物に捧げることで、他の大勢を守ることが出来るのなら。

私だって、同じ選択をするだろう。

自分のせいで死ぬ人間の姿を、二度と見たくない。

その気持ちを…狡猾にも、彼の中の化け物は、利用しているのだ。

…最低の、クズだ。

「…」

羽久は、無言で壁にもたれ掛かっていた。

長い付き合いだから分かる。

あれは、稀に見る…羽久のマジギレだ。

「君は一人で…ずっと一人で…頑張ってきたんだね」

私は、震える彼の身体をそっと抱き締めてあげた。

とにかく、この子を抱き締めてあげたくて堪らなかった。

自分の中に住み着いた化け物を、追い出すことも出来ず。

少女を殺すことを強要され、逆らえばもっと大勢の人間を殺す、と脅され。

自分の為に死んだ人の遺体の前で、彼に消えない恐怖を植え付け、脅した。

何百年も。何千年も。

彼は誰に助けを求めることも出来ず、猟奇殺人犯のレッテルを貼られながら、一人で苦しみ続けてきた。

…こんな悲劇が、あるだろうか?

「怖かっただろう。一人で辛かっただろう…。本当に、よく頑張ったね…」

「う…うぅっ…」

堰を切ったように溢れ出す涙を、私は残らず受け止めた。

誰かが、守ってあげなくてはならない。

この憐れな、孤独な子を。

かつて、サヤノという魔導師がそうしたように。

今度こそ、私達が…彼を救ってあげなくてはならないのだ。
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