神殺しのクロノスタシス1
…結構。

…結構危なかったよ。今のは。

「…はぁ…あぶな…」

「危なじゃねぇよ…」

羽久が、咄嗟に氷柱の時間を止めてくれた。

そのお陰で、直撃を避けられた。

羽久が止めてくれていなかったら、今頃痛い思いしてただろうね。

すると。

「う…うぐっ…っ…」

雪刃が、胸を押さえて呻いた。

いや、あれは雪刃じゃなくて…。

「…も、う…良い、から」

吐月君は、必死に雪刃を抑えながら、私達に向かって訴えた。

「もう良いから…。逃げて…」

「吐月君…」

「もうこれ以上、死んで、欲しく…。逃げて…!」

…それは。

「…いいや、吐月君。私達は、君を助けに…」

「無理だ…そんなの…!誰も…!」

彼は、呪いの言葉を呟いた。

誰かに助けを求めたいと思う度に、自分に言い聞かせてきた言葉を。

「誰も、俺を助けられない!!」

「っ!」

吐月君がそう叫ぶと同時に、再び彼は雪刃と入れ替わった。

途端に、先程とは比べ物にならないほどの魔力が膨れ上がった。

「お前は黙っていろ…!逃がすものか、こいつらはお前の手で殺してやる…」

雪刃は、吐月君を嘲笑うようにそう言った。

この声は、当然吐月君にも聞こえているはず。

彼が今、どんなに絶望しているか…手に取るように分かる。

自分が助けを求めたが為に、また殺される人がいるのだと…。

「…さすがに予想以上だよ、これは…」

私は溜め息混じりに、羽久に言った。

「あぁ…伊達に化け物名乗ってる訳じゃないな。でも、手の打ちようは…」

「よし羽久。撤退しよう」

「…は?」

羽久が私を見る目は、正しく下衆を見る目だった。

「…ふざけてんのかお前。吐月が泣いてるんだぞ…!置いて逃げるってのか」

「そんな殺意のこもった目で見ないで。作戦を変えるだけだよ」

「作戦…?」

雪刃が、これほど吐月君の身体の中に依存しているとは思わなかった。

だから。

「とりあえず羽久…。無茶を言うんだけど聞いてもらっても良い?」

「あ?何?」

「…あの人の時間、止めて。三分くらい」

「…」

「…お願いします」

我ながら、無茶言ってるな~とは思う。

あんな、闘牛のように大暴れする気満々の化け物を、ちょっと止めといて、なんて。

いかに時魔法のプロフェッショナルである羽久でも、相当キツいに違いない。

「…ちっ…。この際あいつを助けられるなら、何でもやってやる。でも、あとは何とかしろよ!」

「ありがとう」

舌打ちを漏らしながら、羽久は雪刃に肉薄し、杖を向けた。

「eimt…ptos!」

雪刃の顔が、驚愕に目を見開いたまま、ピタッと止まった。

雪刃の時間を、一時的に奪ったのだ。
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