神殺しのクロノスタシス1
目の前に、小さなコウモリのような生き物が、パタパタと羽を羽ばたかせていた。

な…何?

「お前は今日から俺様の相棒になるんだぞ!勝手に諦めてんじゃねぇ!」

「は…?」

「何をボケッとしてんだ」

「…コウモリが」

「あ?」

「コウモリが…喋った…!」

思わずそんなチープな反応をしてしまったのだが。

それが、コウモリの機嫌を損ねたようで。

「俺様はコウモリじゃねぇ!」

ベシッ、と二回目の体当たりをかましてきた。

痛かった。

「失礼な奴め。俺様を誰だと思ってる?冥界最上位の魔物、ベルフェゴール様だぞ!」

「…魔物…!?」

魔物と聞いて、俺はドキリとした。

俺の中で魔物と言えば、即ち雪刃のことだったから。

思わず恐怖に顔をひきつらせてしまったが、コウモリ…改め、ベルフェゴールは。

「…おい、お前。俺様をあの能面野郎と一緒にしてんじゃないだろうな」

「え…?」

能面野郎…って、雪刃のことだよな?

「ったく…。あんな奴と一緒にされちゃ堪らねぇな。俺は契約者を脅すつもりなんかねぇよ」

「そ、そんな…」

「俺がお前に求めるのは、魔力と…あとは、血だな」

「…!」

俺の脳裏に甦ったのは、少女の首から迸る血潮。

同じ魔物なら、ベルフェゴールもあんなことを…。

「おい、誤解するなって。俺が欲しいのは、他の人間の血じゃない。お前の血だ」

「俺の…?」

「そうだ。召喚のときにちょっと飲ませてもらったが…」

パタパタ、と飛んできたベルフェゴールが。

俺の手の甲に留まったかと思うと、針で軽く刺されたかのように、チクッ、とした。

そして、こきゅっ、こきゅっ、と五秒くらい血を啜っていたかと思うと。

「ぷはー!うめぇ!」

何やら嬉しかったらしく、くるんくるんしながら羽を羽ばたかせていた。

…。

「ナマで飲むと最高だな!」

「…」

「おい、何だよその呆けた顔は」

「え?あ、いや…」

なんか…痒くない蚊…みたいな。

どちらかと言うと…献血…に近い感覚なのか…?
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