神殺しのクロノスタシス1
「しっかし、シルナもお人好しだよなぁ」

久々に帰ってきたイーニシュフェルト魔導学院の学院長室で。

羽久は、溜め息混じりにそう言った。

「お人好し?何で?」

「あの吐月って奴、イーニシュフェルトに入れたんだって?」

あぁ、その話か。

そう。雪刃の支配から解放され、冥王ベルフェゴールと契約した吐月君を、私は自分の学校に迎え入れた。

彼は長い間雪刃に依存しており、魔力の扱い方も、大変燃費が悪い。

持ち前の魔力の多さも、これでは全く活かすことが出来ない。ただ魔力を垂れ流すだけだ。

従って、魔力の効率的な扱い方を学ばせる為に、私は吐月君をイーニシュフェルトに入学させた。

最高学年の一年だけだが、元々才能はある子だから、一年も学べば、更にモノになることだろう。

吐月君自身は、自分が学校に行くなんてとんでもない、と断ろうとした。

いくら雪刃に脅されていたとはいえ、自分が多くの少女を殺してしまったことは事実。

自分に相応しいのは法の裁きだと、頑なに言い張ったのだが。

君は折角才能があるのだから、檻の中でその才能を殺すより、罪を償うつもりで聖魔騎士団の為に働いて欲しいと説得した。

それでも納得しない吐月君に、私は最終手段とばかりに、フユリ様のもとに連れていった。

彼が幼女連続殺人事件の犯人だと説明した上で、私は事の次第を全て話した。

その上でフユリ様から直接彼に裁きを下して欲しい、と言ったところ。

フユリ様はただ、「私は、あなたに課すべき刑罰を持ちません。ルーデュニア聖王国のいかなる法律でも、あなたを裁くことは出来ません」と言っただけだった。

死刑か、軽くとも終身刑が下されると思っていたらしい吐月君は、ぽかんとしていたが。

結局これを機に、イーニシュフェルトに入学することを承諾してくれた。

ちなみにアトラス君は、吐月君をイーニシュフェルトに入れることに、やや難色を示していた。

というのも、彼自身幼い愛娘がいる身。

幼女連続殺人事件の犯人ともなると、警戒してしまうのも無理はない。

しかし。

そこはシュニィちゃんに宥められ、それに吐月君自身も、実際会ってみればアトラス君が想像していたような悪漢ではなく、むしろ普通に親しみやすい好青年だった為。

結局、何も言えず引き下がる他なかった。

と、いう次第で現在吐月君は、イーニシュフェルトで勉強している訳だが…。
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