神殺しのクロノスタシス1
ルーデュニアは今でこそ、魔導に寛容な社会になっているが。

まだ魔導理論が世に知れ渡っていない時代、魔法を扱う魔導師は、それこそ今で言うアルデン人のような扱いを受けていた。

いや、もっと酷かったかもしれない。

人智の及ばない力を使う私達魔導師は、普通の人間にとっては脅威の対象だった。

歴史の中で、抑圧された魔導師達と人間の争いはいつの時代も何度も繰り返されてきた。

今でこそ、魔導適性のある人間が増え、魔法の理解も進んで、魔導師も、そうでない人間も、仲良く共存しているが…。

彼らの言う「危険思想」とは、そんな共存社会にとって最も恐れられているタブーだ。

その内容は、要するに「逆らう人間を皆殺しにして、魔導師が魔法によって国を作り、人間を支配下に置く」というもの。

魔導師が、魔法によって国を統治する。

何やら壮大に聞こえるが、実のところこれは、やれば出来なくはない。

多くの魔導師達が協力すれば、時間がかかっても成し遂げられるだろう。

大昔から、何度かそんな思想が広まったことがあり、その度に人間と魔導師の間で、戦争が繰り広げられた。

その為に、ルーデュニアでは、このような危険思想を教え説くことを重罪として扱っていた。

この思想は、やがて人間と魔導師を真っ二つに割る可能性を生む。

国の平和の為、人々の命を守る為にも、決して破ってはならない規律なのだ。

故に、殺人犯と同じくらい…いや、それ以上に思想犯は厳しく取り締まられる。

成程、私にそんな嫌疑がかかっているのなら、この乱暴な扱いも納得出来る。

だが、私は無罪である。

ただの一度も、危険思想を生徒に教えたことなどない。

私自身がこの思想を実現しようとしたことは…。

…隠さずに言うなら、何度かある。

しかし、実行に移したことはない。

ましてや、それを自分の学校で、生徒に刷り込んだなど…。

濡れ衣も良いところだ。

私は確かに、後ろ暗いことを何もせずに生きてきた訳ではない。

でも、やってもいない重罪を疑われるほど、恥じる生き方をしてきたつもりもない。

「…私は、罪に問われるようなことは何もしていませんよ」

「…あくまで、罪を認めないということだな?」

「当たり前でしょう。やってもいない罪を認めるはずがありません」

「…」

尋問官は、ならば仕方ない、とばかりに立ち上がった。

その手には、硬そうな警棒が握られていた。

あぁ…そういう手段に出るか。

「…何をしてくれても良いですよ。何をされても、認めるつもりはないので」

私がどれだけ、どれだけ長く生きてきたと思う。

今更、年若い尋問官の拷問くらいで、音を上げるはずはない。
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