神殺しのクロノスタシス1
フユリ様は、悲痛な面持ちで言った。

「私とて、彼が犯人だとは思っていません。いえ、思えないのです。それでも…ここまで証拠が揃っていたら、彼が犯人だと言わざるを得ない」

「…」

「どれだけ庇おうとしても、私の主張はただ、私とシルナさんの『信頼』に基づく、目に見えない証拠でしかない。そしてそんなものは、証拠とも呼べません」

…そりゃそうだ。

あの人がそんなことするはずがないじゃない、なんて。

裁判でそんなものを証拠として主張してみろ。鼻で笑われるだけだ。

「私だって、信じられないんです。あの方が危険思想の持ち主だなんて、そんなはずはありません。だからこれは何かの間違いなのです。でも…無罪だと主張するからには、これらの動かぬ証拠を、全て覆すに足る新しい証拠を見つけなければなりません」

…で、それが見つけられなくて困ってる、ってことか。

「このままでは、シルナさんは思想犯として処刑されてしまいます。そんなことは、絶対に許せません」

「…そうですね」

許せないね。絶対に。

って言うか…許さない方が良いね。

この国の平和の為に。

「あなた方は、シルナさんの無罪を証明したいのですよね?」

「…えぇ」

「私も同じ気持ちです。私に出来ることなら、何でも協力します。どうか頼ってください」

まさか、女王様が協力者とは。

全く、百人力ではないか。

「…ありがとうございます、フユリ様」

頭を下げて、フユリ様の面会を終え。

俺達は、王宮を出た。

俺の頭の中は、驚くほどに冷えていた。
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