神殺しのクロノスタシス1
イーニシュフェルト魔導学院と言えば、俺でも知っている王都の超名門校だ。

そこの学院長が、一体こんなド田舎に何をしに来るのか。

何でも、全国各地の魔導師養成校を視察して、優秀な魔導師の卵を集めて回っているとか。

この知らせを聞いて、クラスメイトは大層喜んだ。

もしかしたら、ワンチャン、イーニシュフェルト魔導学院に入学出来るかも!みたいな。

自分こそは宝くじに当たる、という思考なのかなぁ。

こんなド田舎の凡人揃いが、イーニシュフェルト魔導学院になんて行ける訳ないじゃん。それは無謀と言うものだ。

しかし、あながち無謀ではない生徒もいた。

それが、うちの兄貴だ。

イーニシュフェルト魔導学院学院長が来ると聞いて、誰もが兄貴に期待した。

兄貴なら、学院長のお眼鏡に適うのではないか、と。

兄貴もそのつもりだったし、学校の教師陣もそのつもりだった。

当然、兄貴を全面的にプッシュして、推薦するつもりだった。

兄貴なら、イーニシュフェルト魔導学院に入れるだけの実力がある、と。

本当に兄貴がイーニシュフェルトに行ってしまったら、俺、一体どうすれば良いんだろうなぁ。

我が家に残るのは、無能の弟だけ。

こりゃますます居場所がなくなるな、と思った。

もし本当に居場所がなくなったら、そのときはもう…本当に、死んだ方が良いのかもしれない。

誰にも愛されてないし、誰一人愛していない、誰からも馬鹿にされるだけの俺は、生きていても惨めなだけなんだから。






…と、思っていたのだが。





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