神殺しのクロノスタシス1
それから、私はイーニシュフェルト魔導学院に転校した。

王都に来るのは、生まれて初めてだった。

シルナ学院長は、とても不思議な人だった。

アルデン人である私を、平気で学院に受け入れてくれた。

しかし、私にはイーニシュフェルト魔導学院に入る為のお金がなかった。

身寄りのない私には、お金を借りる宛もない。

恥ずかしかったが、私はシルナ学院長にそのことを打ち明けた。

「あの…学院長、私…」

「うん?何?」

「私、お金持ってないですから…。学校には…」

入れないんです、と言おうとした。

だが。

「あぁ、大丈夫だよ。そういう生徒の為に、奨学金制度があるから。奨学金って分かる?」

「は、はい」

聞いたことならある。

保証人もつけられない私には、何の縁もないと思っていた。

「卒業したら返してくれれば良いからね。大丈夫」

「…!」

まさかこのときの奨学金が、学院長のポケットマネーから出ているとは、このときの私には知るよしもなかった。

ちなみに私は、未だにこのとき借りた奨学金を返していない。

卒業してから返そうとしたのだが、学院長が、

「あぁ、シュニィちゃん最優秀生徒だから、学費免除だよ。奨学金も返さないで良いから」と言って、頑なに受け取ってくれなかった。

私としては、申し訳ないのでどうしても返そうとしたのだが。

しばらく押し問答した結果、結局受け取ってもらえず、仕方ないので、後日母校への寄付金という形でお金を送った。

「でも…私、アルデン人なのに…」

あのときの私…今もだが。

私はアルデン人であることを、酷くコンプレックスに感じていた。

アルデン人であるという理由だけで、お店で物を売ってもらえなかったり、そもそも立ち入りすら禁止された公共施設もあった。

今住んでいる王都ではそういうことはないが、私がそれまで住んでいたのは田舎だったので、価値観が古いままだったのだ。

しかし、学院長は全く気にしていないようで。

「アルデン人だから何?君が魔導師として、優れた才能を持っていることに変わりはない」

「…」

「大丈夫。君はきっと、アルデン人であるというだけで、辛い思いをたくさんしてきたんだろうけど…」

学院長は、笑顔で私の頭にぽん、と手を置いた。

「いつかきっと、ありのままの君を愛してくれる人が出来るよ。いつか必ずね」

「…はい…」

私は、曖昧に返事をした。

本当にそんな人が出来るなんて、信じていなかった。

素直にそんな言葉を信じられるほど、生易しい人生を送ってきた訳じゃなかった。
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