神殺しのクロノスタシス1
俺は、挫折の味を知った。

今まで当然のようにあったものが、ほんの少しのきっかけで、ある日いきなりなくなることがあるのだと知った。

これから先、どんなに期待されようが。

どれだけ必死に頑張って、名誉挽回しようが。

なくなるときは一瞬なのだと。

そう思うと、最早努力しようなどという気は全くなくなった。

俺が今のように、自堕落な性格になってしまったのは、そのせいだ。

いつかなくなるかもしれないものなら、それにすがるべきではない。

愛情とか信頼とか期待とか。

努力とか才能とか。

そんな目に見えない、不確かなものにすがるのは、もうやめた。

こうして俺は、無気力な人間に成り下がった。

白々しくも、俺に向かって「たった一度失敗したくらいで諦めて…」とか何とか言う人もいたけど。

だからこそだ。たった一度失敗したくらいでなくすものなら、最初から信じない方が良い。

俺はそれからも、ずっと惰性で魔法の勉強は続けていたけれど。

もう昔のように、誰からもちやほやされることはなかった。

誰からもちやほやして欲しいとも思わなかった。

そうしているうちに、俺は学校を視察に来たイーニシュフェルト魔導学院の学院長、シルナ・エインリーに引き抜かれて。

結局、俺は一年遅れでイーニシュフェルト魔導学院に入学した。

このどんでん返しに周囲は驚いたし、今更になって「お前ならやれると思ってた」とか、「やっぱりお前は天才だ」とか、猫なで声ですり寄ってきた奴もいたけれど。

今更、そんなものは必要ない。

こいつらの言葉など、天気のように簡単に移り変わるのだ。

そう思うと、何を言われても嬉しくなんてなかった。
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