神殺しのクロノスタシス1
自分でも、自覚はなかった。

しかし。

「はい、これうちの取引先一覧。目を通しておいて」

「…」

移動の途中、マキナスに紙の束を渡されて、俺は途方に暮れてしまった。

そこに書いてある文字が、全く読めなかったからである。

「…どうしたの?」

困惑している俺に、マキナスが声をかけた。

「いや…。これ…何て書いてあるのかと思って…」

「え。君文字読めなかったの?」

…そうらしい。

「それならそうと、早く言ってくれれば良いのに」

「ごめん…」

「別に良いよ。うちには字が読めないのは多いからね。僕も、ジュリスに拾われるまでは読めなかったし」

あ、そうか…。貧民街出身なんだもんな。

当然、学校になんて通ったことはない。

俺も、昔は学校に通っていたのだが…。ほんの僅かな期間だったせいか、もうすっかり忘れてしまった。

「仕方ないな。じゃあ君もチビ達に混じって、読み書きを覚えると良いよ。知ってて困ることじゃないし」

「…分かった」

「…はぁ、全く…。ジュリスも、とんでもない新人を押し付けてくれたもんだよ。せめて字くらいは読めるようにしてから、投げてくれれば良かったものを」

それは悪かったですね。

仕方ないだろ。まともに学校通ったことないんだから。

「そういえば、地理もからっきしだったもんね。自分が何処にいるのかも分かってない、記憶喪失だったし」

「うん…」

「あれから記憶、戻ったの?」

「…まぁ、ある程度は」

何で自分が行き倒れていたのかは、ちゃんと分かってる。

流れ流れて、ルティス帝国に辿り着いてしまったのだろう。

「ふぅん…。じゃあ家族は?帰らなくて良いの?」

「…帰る場所はない」

「あぁ、そう」

俺に家族なんていない。

それどころか、俺は追われる身だ。

「ならこれまで通りうちにいれば良いよ。何だか、ジュリスは君のことが気に入ってるみたいだし…」

「…え?」

「まぁ、そう見えるだけかもしれないけどね」

ジュリスが俺を気に入ってる、って…。

そんな風には見えないが…。気に入ってくれているのだろうか?
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