神殺しのクロノスタシス1
かつて俺は、ルティス帝国じゃない別の国で生まれた。

生まれて十年くらいは、家族と一緒に過ごした。

家族仲は、そんなに良い方ではなかった。

俺は両親にとって、それほど大切な子供ではなかったそうで。

二つ年下の妹の方が、遥かに可愛がられていた。

幼い頃から兄妹の愛情の差は歴然としていて、俺が放っておかれるのは当然だった。

だから、俺は愛情に差をつけられても、仕方のないことと割り切っていた。

どういう理由で俺を嫌っていたのかは知らないが…。多分俺が嫌いだったというより、単に妹の方が好きだったんじゃないだろうか。

しかし、俺は悲しんだりはしなかった。

さっきも言ったように、昔からそうだったのだから、それが当たり前だと思っていたし。

露骨に兄妹で愛情差別をするような親に、好かれたいとも思わなかった。

何より、差別されていたのは愛情だけで、別に暴力を受けたり、家の中で虐げられていた訳ではない。

ただ可愛がられないだけで、生活に困ることはなかった。

だから、大人になるまでは仕方なくこの家にいるけど、大人になったら出ていけば良いや、と。

そして出ていったら、二度と帰ってこなければ良い。

そう思っていた。

でも、そうも言っていられなくなった。

というのも、俺が十歳のとき…両親は、俺を売ることに決めたからである。
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