神殺しのクロノスタシス1
あの国では、まだ人身売買が当たり前のように横行していた。

人間という生き物は、犬や鶏や牛がそうであるように、売り物として売買される対象だったのだ。

肉屋が肉を、魚屋が魚を売るように…奴隷市場では、人間を売っていた。

売られるのは子供から大人まで、性別も人種も選り取りみどり。

当然、値段にも幅があった。

安ければほんの数万で、高ければ小さな家が建つほどの値段にもなった。

用途に応じて、皆それぞれ好きな奴隷を買った。

富裕層は、何人、何十人もの奴隷を使っていた。

俺の家はそれほど裕福ではなく、奴隷も使ってはいなかったが。

俺が十歳のとき、自営業が失敗して、両親は多額の借金を負った。

その借金の為に、俺を金に替えることにしたのだ。

奴隷にも相場があると言ったが、俺の歳くらいの子供は、丁度働き盛りで、しかも暴力で従えられる年齢の為、高値で売れた。

と言っても、俺一人を売るくらいで返せる借金の額ではなかったそうだが。

でも、妹は売られなかった。高く売れるのは俺だけでなく、妹も同じだったけれど、でも妹は家に残った。

妹を売るなんて出来ない、と両親は涙ながらに言った。

妹を売ることは出来ないが、俺を売ることは躊躇わないらしい。

成程。

そして俺は、拒否権も何もないまま、ある日いきなり手錠と足枷をつけられて、着のみ着のまま鎖に繋がれて、家を追い出された。

両親は、連れていかれる俺を見ても泣きもしなかったし、言葉の一つもかけてはくれなかった。

ただ、出荷される牛や羊を眺めるような目をしているだけだった。

実際俺はあのとき、ただの出荷される家畜に過ぎなかった。
< 340 / 669 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop