神殺しのクロノスタシス1
イーニシュフェルト。

シルナ・エインリー。

イーニシュフェルトの名前を…今もなお使う者がいるとしたら、それは…。

「…あぁ、そうか…」

…あんたか。

あんたが…。世界を…。

「…分かったよ。サナキは返すよ」

俺は、出しかけた杖をしまった。

「…?」

クュルナという女の方は、いきなり戦意をなくした俺に戸惑っていた。

シルナ・エインリーも。

「…良いのかい?戦わなくて」

「馬鹿を言うな。…イーニシュフェルトの生き残りと杖を交えるほど、俺は恩知らずじゃねぇよ」

「…そう…。君、それほど長く…」

あぁ。長く生きてる。

気の遠くなるほど長い時間を。

あんたも、それは同じだろう。

「…一応聞いとくが、あんたらは…あいつを、サナキを利用する為に連れ戻そうって訳じゃないんだよな?」

もしそうなのだとしたら、サナキを返すかどうか躊躇うが。

「私はただあの子に傍にいて欲しいだけだ。あの子は…私の生きる理由なんだよ」

「…そうか」

生きる理由…か。

あんたが言うと…言葉の重みが違うな。

「…分かった。でも…あいつ、多分お前達のこと忘れてるぞ?」

「あぁ…。別の人格が出てきてるんだよ、きっと」

別の人格…そういうことか。

サナキの不可解な「妄想」の理由が、これで分かった。

…まぁ、そんなことだろうとは思っていたが。

要するにサナキは、多重人格者で。

サナキという人格は、彼の中にいる大勢の、一人に過ぎないのだ。

それでも俺達が知るあいつは、サナキ一人だけだ。

「…ついてきてくれ。『オプスキュリテ』のアジトに案内する」

「『オプスキュリテ』…?」

「俺達の組織だよ」

堅気の人間を招くには、いささか物騒なアジトだが、仕方ない。
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