神殺しのクロノスタシス1
これで飯を食ってる身だから、文句は言えないが。

毎回毎回、どっと疲れる。

「はぁ…」

アシバも同様であるらしく、うんざりしたような溜め息を漏らした。

「毎回修羅場ばかりで、嫌になるな…」

「いや…。今回はまだ穏やかだったろう。前回の夫婦は酷かったぞ」

と、イズチ。

…そういえばそうだったな。

思い出したくないから、記憶の中から消していたが。

前回の浮気調査では、夫の不倫にぶちギレた奥さんが、俺達の目の前で手当たり次第に物を掴んで夫を殴り付け、流血沙汰になった。

目を血走らせながら、夫を殴り付けるあの鬼のような奥さんの姿。

二日くらい夢に出てきたよ。

それに比べたら、今回のOさんは非常に穏やかだ。

「…それにしたって、最近浮気調査多いですよね」

と、ウルミ。

「たまには他のお仕事がしたいです…」

「あるぞ。婚約相手の素行調査の依頼…」

「…そういうのも遠慮したいです…」

素行調査。浮気調査よりはマシだが。

たまに、見てはいけない人間の闇を垣間見てしまうことがあるので、ある意味では浮気調査より危険な仕事である。

大企業に勤めていて、真面目で誠実そうな彼氏が、実は強姦で前歴がついてました、なんてこともあった。

その事実を彼女さんに伝えたら、俺達の前で大号泣。

まぁ…泣きたくなるのも分かる。

そんな陰気なお仕事が続くのは、精神的にも辛いのだが…。
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