神殺しのクロノスタシス1
「なら…別の案件も来てるぞ」

「おぉ…!何だ?どんな事件でも俺が華麗に解決…」

「近所のおばあちゃんから依頼。迷子猫の捜索。先週から家に帰ってこないんだと」

「またそんな案件かよ!そりゃ心配だけど…!」

確かに、飼い猫帰ってこなくなったら心配だよな。

「他には!?」

「最近夫が夜遅くにならないと帰ってこなくなって、家にいるときも携帯ばっか見てるんですけど、調査してもらえませんかという依頼も…」

「結局浮気調査じゃないか!うちに舞い込んでくる依頼はそんなのばっかだな!」

「仕方ないだろ!そういうのしか来ないんだから。俺だってこんな仕事ばかりは嫌なんだよ!我慢しろ!」

あぁ…喧嘩が始まってしまった。

なんて不毛な争いだ。

「くそっ…。こんなことなら、『探偵事務所開くから一緒にやらないか』なんて誘い、乗らなきゃ良かったぜ」

ぶつぶつとぼやくイズチである。

そう、俺もイズチも、アシバ本人に誘われて、このアシバ探偵事務所にやって来た。

探偵業と聞いて、色々楽しい想像をして来た俺達だが。

その実態は、終わりない不倫と素行調査。そして失せ物探しの連続。

自分で選んだ道とはいえ、イズチが愚痴りたくなるのも分かる気がする。

探偵業がこんなに地味な…と言うか闇の深い仕事だとは知らず…。

「俺だって、もっとマシな依頼が来ると思ってたよ…」

アシバは、力なくそう言った。

「でも選んでたら、一生仕事なんて来ねぇんだから…」

「…これもアシバに人脈がないからだな…」

「うるせぇ。放っとけ」

アシバ探偵事務所は、この業界ではまだまだ駆け出しの新参者。

仕事を斡旋してくれる馴染みの事務所もないし、実績にも乏しい。

職員だって、たったの五…いや、実質四名だけ。

出来る仕事は限られる。

故に、文句を言わず、依頼された仕事は片っ端から引き受けてないと、生活していけない実態がある。

それが分かっているから、浮気調査でも失せ物探しでも頑張ってやる。

が…たまの文句くらいは、許容して欲しい。

「…はぁ。文句ばかり言ってても仕方ない。次の仕事をどうするかは明日決めるとして…今日は帰ろう」

「…だな」

Oさんの案件も、無事に…無事かどうかは分からないが…一応解決した訳だし。

今日くらいは、素直に祝杯をあげて良いだろう。
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