神殺しのクロノスタシス1
ひとまず、エルク・シークスを帰らせ。

アシバは俺達を集め、会議を開いた。

「さっきの依頼…どうする?」

「受けるに決まってるだろ!」

アシバの問いに、即答したのはイズチだった。

まぁ、イズチならそう答えるだろうと思った。

「生き別れの妹を探してるなんて…!なんて健気なんだ。俺達で探してやろうぜ!そしてあの兄妹を再会させてやるんだ!」

…イズチまで涙目なんだが。

情に絆されたらしいな。イズチらしい。

「浮気調査なんかより、余程有意義な仕事じゃねぇか!」

「いや…。浮気調査も充分有意義だからな…?」

これまでのクライアントに失礼だろう。

まぁ…浮気調査よりは…幾分か気分の良い仕事だろうか。

ちゃんと妹さんを見つけて、再会させてあげられたら、の話だけど。

「…キノファさんは?賛成か?」

と、アシバ。

「あぁ…。良いと思うよ」

人探しも、立派な探偵の仕事だ。

「ウルミは?」

「わ、私も良いと思います。長い間音信不通だった兄妹が再会する…。実現すれば、素晴らしいことだと思います」

ウルミも乗り気である。

そして、アシバも。

「…そうだな。いつもの仕事よりは…やり甲斐がありそうだ」

いつもの仕事のやり甲斐のなさと来たら、皆死んだ目になるくらいだからな。

たまにはやり甲斐のある仕事を所望する。

勿論、必ずしも感動的な再会が待っている訳ではないことも分かっている。

エルクの妹が生きているかどうかさえ、現時点では不明なのだ。

もし生きていたとしても、妹が兄に再会する気がなかったら…再会は叶わない。

それは分かっている。

でも、それでも…一縷の希望に託してみるべきだろう。

俺達は、そう判断した。

「よし。なら早速エルクさんに電話しよう。この依頼を受けるって。それから具体的な話を詰めて…」

「よっしゃ!やってやろうぜ」

「私、電話しますね」

仕事が決まるなり活気づく、アシバ探偵事務所。

さて、俺も動こう…と思った、そのとき。

「…」

「…?」

俺にしか見えない、五人目の職員。

月読が、物凄く複雑そうな表情で腰掛けていた。

…どうしたのだろう。月読は。

「…何か不満があるのか?」

他の三人に聞こえないように、俺は小声で月読に声をかけた。

すると。

「…この依頼、やめた方が良いと思う」

月読は、俺にしか聞こえない声ではっきりと言った。
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