神殺しのクロノスタシス1
「『死火』…?何の話だ?」
アシバ達は、当然それが何なのか分からない。
だが、俺には。
俺達には、よく分かる。
今まで何回も…何回も、同じようにやって来たから。
「『死火』を渡せ、無闇(むやみ)・キノファ」
エルク・シークスは、俺の本名を呼んだ。
その名で呼ばれるのは…いつ以来だろうか。
「無論、断ればこの人間達を殺す」
「…」
…成程。
いもしない「妹」の捜査を求めてアシバ探偵事務所に来たのは、その為。
アシバ達を人質に、俺から『死火』を取り上げる為に。
「…そういうことか」
よく分かった。
その方法は、俺にとって大変有効だ。
気心の知れたアシバ達を、みすみす見殺しにしたくはない。
アシバ達を見殺しにすることと、『死火』を渡すこと…どちらかを選ぶなら。
俺は…。
「…悪いが、そう簡単に渡す訳にはいかない」
俺は長い間、『死火』を守りながら生きてきた。
人質を取られたからと言って、ほいほい渡すことは出来ない。
「人質の命は構わないと?」
「答えは同じだ。『死火』は渡さない」
この古ぼけた魔導書を守ること。
それが俺の存在意義であり、これだけは決して譲れない。
「…ならば仕方がない。力ずくでも…渡してもらおう」
エルク・シークスは、殺気を滲ませて俺を睨んだ。
そちらがそのつもりなら。
「…月読」
「うん」
『死火』の化身であり、『死火』そのものでもある月読が、俺を守るように前に出た。
この力を使うのは、本当に久し振りだ。
そして今この場でこの力を使ってしまえば、俺はもう二度と…キノファ・フォールスとして…人間として、アシバ探偵事務所で働くことは出来ないだろう。
でも、構わない。
俺は今まで、ずっとそうやって生きてきた。
人間の振りをして刺客から隠れ、正体を知られたら、その土地から離れ、また他の人里に紛れ込む…。
そうやって、まるで逃げるように生きてきた。
それは全て…『死火』を…月読を守る為。
だから…。
「…お前が『死火』を奪おうとするなら、俺が殺す」
「…」
エルク・シークスは、口許を歪ませるように笑った。
この男が何者なのか、俺は知らない。
何を企んでいるのかも。
だが、目的は『死火』に違いない。
俺は、そう確信していた。
「…無闇」
月読が、久し振りに俺を本名で呼んだ。
「アシバ君達はどうするの。このままだと巻き込んで死んじゃうよ」
「…守ってくれ。無関係の彼らを死なせたくはない」
「…分かった」
何も知らないアシバ達は、話についていけずに言葉を失っていた。
いきなり無闇だの『死火』だの…彼らには、何のことか分からないだろう。
彼らを騙していたのは、エルク・シークスではない。
他でもない、この俺なのだ。
そう思うと、心が痛かった。
それでも、俺は『死火』を渡す訳にはいかないのだ。
だから。
「俺は…お前を倒す」
負けるつもりは、ない。
アシバ達は、当然それが何なのか分からない。
だが、俺には。
俺達には、よく分かる。
今まで何回も…何回も、同じようにやって来たから。
「『死火』を渡せ、無闇(むやみ)・キノファ」
エルク・シークスは、俺の本名を呼んだ。
その名で呼ばれるのは…いつ以来だろうか。
「無論、断ればこの人間達を殺す」
「…」
…成程。
いもしない「妹」の捜査を求めてアシバ探偵事務所に来たのは、その為。
アシバ達を人質に、俺から『死火』を取り上げる為に。
「…そういうことか」
よく分かった。
その方法は、俺にとって大変有効だ。
気心の知れたアシバ達を、みすみす見殺しにしたくはない。
アシバ達を見殺しにすることと、『死火』を渡すこと…どちらかを選ぶなら。
俺は…。
「…悪いが、そう簡単に渡す訳にはいかない」
俺は長い間、『死火』を守りながら生きてきた。
人質を取られたからと言って、ほいほい渡すことは出来ない。
「人質の命は構わないと?」
「答えは同じだ。『死火』は渡さない」
この古ぼけた魔導書を守ること。
それが俺の存在意義であり、これだけは決して譲れない。
「…ならば仕方がない。力ずくでも…渡してもらおう」
エルク・シークスは、殺気を滲ませて俺を睨んだ。
そちらがそのつもりなら。
「…月読」
「うん」
『死火』の化身であり、『死火』そのものでもある月読が、俺を守るように前に出た。
この力を使うのは、本当に久し振りだ。
そして今この場でこの力を使ってしまえば、俺はもう二度と…キノファ・フォールスとして…人間として、アシバ探偵事務所で働くことは出来ないだろう。
でも、構わない。
俺は今まで、ずっとそうやって生きてきた。
人間の振りをして刺客から隠れ、正体を知られたら、その土地から離れ、また他の人里に紛れ込む…。
そうやって、まるで逃げるように生きてきた。
それは全て…『死火』を…月読を守る為。
だから…。
「…お前が『死火』を奪おうとするなら、俺が殺す」
「…」
エルク・シークスは、口許を歪ませるように笑った。
この男が何者なのか、俺は知らない。
何を企んでいるのかも。
だが、目的は『死火』に違いない。
俺は、そう確信していた。
「…無闇」
月読が、久し振りに俺を本名で呼んだ。
「アシバ君達はどうするの。このままだと巻き込んで死んじゃうよ」
「…守ってくれ。無関係の彼らを死なせたくはない」
「…分かった」
何も知らないアシバ達は、話についていけずに言葉を失っていた。
いきなり無闇だの『死火』だの…彼らには、何のことか分からないだろう。
彼らを騙していたのは、エルク・シークスではない。
他でもない、この俺なのだ。
そう思うと、心が痛かった。
それでも、俺は『死火』を渡す訳にはいかないのだ。
だから。
「俺は…お前を倒す」
負けるつもりは、ない。