神殺しのクロノスタシス1
…ところで。

「今日はどうしたんだ?シュニィ。まさかチョコレート届けに来ただけじゃないんだろ?」

チョコレートは、あくまでついでだろう。

多忙な魔導部隊長がわざわざ足を運ぶほどなのだから、それなりの面倒事は覚悟している。

すると、案の定。

「そうですね…。申し訳ないのですが、また頼んでも良いでしょうか?」

シュニィは、言葉通り申し訳なさそうに頼んできた。

「何すれば良いの?」

「実は、エリュティアさんが探索魔法で、不穏な気配を察知したとのことで…」

…不穏な気配、だと?

「それを調査してきて欲しいんです。お願い出来ますか?」

「分かった。やるよ」

「…えらくあっさりですね、羽久さん…」

そうだね。

「このまま学院にいたら、シルナがゲヘゲヘ言いながら、チョコ食うところ見なきゃいけないからな。地獄だろ?」

「あ、成程…」

「ちょっと待ってよ羽久。私がいつゲヘゲヘ言ったの。しかもシュニィちゃんも成程ってどういう意味!?」

言葉通りの意味に決まってるだろ。

「私は!生徒からもらったチョコレートに、鼻の下を伸ばしてなんかいません!」

女子更衣室に忍び込んでおきながら、「私は覗き見なんてしてません!」と声高に宣言して、信じてもらえるとでも思ってるのだろうか。

「シルナの趣味なんざどうでも良いんだよ。それより、不穏な空気って言うのは…『禁忌の黒魔導書』について?」

「…恐らくは」

…やっぱりか。

まぁ、それ以外ないわな。

「『禁忌の黒魔導書』かぁ…。だいぶ討伐したけど、まだいくつか残ってるんだよね」

シルナの言う通り。

何だかんだまだ数冊残ってて、面倒臭い。

「よし…。何にせよ、行ってみるか」

「宜しくお願いします、学院長先生。羽久さん」

ぺこりと頭を下げるシュニィ。

しかし、シルナは。

「あ、ちょっと待って羽久。まだチョコ食べてない」

「うるせぇさっさと行くぞ!」

「生徒からもらったチョコがぁぁ!」

俺はシルナの襟首を鷲掴みにして、無理矢理学院長室を出た。
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