神殺しのクロノスタシス1
私はリネン室に向かい、訳を話して少し使わせてもらうことにした。

「シュニィ…?どうするんだ?」

私の後ろをひょこひょことついてきたアトラスさん。

これから何をするのか、分かっていない様子。

別に、大したことではない。

「霧吹きで湿らせてから、アイロンでシワを伸ばします。それから、洗剤を使って染み抜きを」

「!そんなことが出来るのか?」

「まぁ、完全に元通りにはなりませんけど…。少しは綺麗になりますよ」

別に破れた訳でもないのだから、捨ててしまうのは勿体ない。

私はてきぱきとテキストの修復作業を始めた。

アトラスさんは、そんな私を、ぽかーんと眺めていた。

こんな方法で直すなんて、思ってもみなかったらしい。

一通り修復作業が終わると、テキストは随分マシな姿になっていた。

「はい、直りましたよ」

完全に元通りではないが…普通に使うぶんには、問題ないだろう。

「凄い…!シュニィ、こんなことまで出来るのか」

「根が貧乏性なだけですよ」

孤児院育ちだと、自然とこういう知識だけは身に付くものだ。

「いや、本当に凄い。ありがとう、シュニィ。今日はシュニィに助けられっぱなしだな」

「助けるだなんて、そんな大袈裟な…」

「助かったよ。今度、何かお礼させてくれ」

お礼をされるようなことは、何一つしていないというのに。

アトラスさんは、嬉しそうに私の頭をくしゃくしゃしてきた。

…これ、癖なのだろうか?

女の子相手なら、誰でもやるのだろうか。

そうだとしたら…いささか腹が立つのだが。

すると。

「…あっ」

リネン室に洗濯物を出しに来たらしい女子生徒二人が、リネン室の扉を開けて私の姿を見るなり、固まった。

そして、どうしよう…とでも言いたげな、嫌そうな表情で二人は顔を見合わせ。

そして、逃げるようにそそくさと去っていった。

「…」

「…?何だったんだ?あの二人は」

この手の反応は、私にはもう慣れたもの。

むしろ、面と向かって言われないだけマシだとすら想っている。

だが、アトラスさんには何のことか分からなかったらしい。

「…私がいるから、気持ち悪かったんでしょう」

「…?何が?」

たまにいるのだ。ああいう子達。

地方から来ている生徒に多い。

「アルデン人に触ったり、声を聞いたりすると呪われる、という迷信が伝わる地域があるそうで…。そういう土地出身の生徒は、ああやって私を避けるんです」

アルデン人なら、珍しいことではない。

私も、今まで何度もああやって避けられ、

「何だそれは!言い掛かりじゃないか!」

アトラスさんは、テキストを握り締めんばかりに、そう叫んだ。

今度は、私がぽかんとする番だった。
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