神殺しのクロノスタシス1
鋭い声で呼ばれた途端、私は背筋を凍らせた。
ここでは、監視員に呼ばれるということは、何かしらの懲罰が待っていることを意味する。
それが事実だろうと、冤罪だろうと関係ない。
監視員が懲罰に値すると判断すれば、懲罰を受けなければならないのだ。
懲罰を受けるようなことをした覚えは、全くない。
でも、前にも言ったように…食堂婦である私は、仲間内から謂れのない密告を受けてもおかしくない。
呼び出しを受けた私が硬直しているのを見て、同室の仲間達は、馬鹿にしたように笑った。
あんた、一体何をしたの?と。
私の記憶が正しければ、咎められるようなことは何もした覚えがない。
内心脅えながら、私は急いで監視員のもとに走った。
遅れれば、余計懲罰が重くなってしまう。
「ついてこい」
「はい…」
監視員に連れられ、私はきっと、懲罰室に向かうのだろうと思っていた。
そこには拷問用の器具があって、私を尋問する監視員が何人か待っているのだろう、と。
そして確かに、連れていかれた部屋には、私を待っている人がいた。
でも、その部屋は懲罰室ではなかった。
更に、そこで待っている人は、私を尋問する監視員でもなかった。
「…?」
そこは、収容所にやって来た客人を通す為の、応接室だった。
私達囚人には、全く縁のない部屋だ。
長年収容所にいる私でも、入ったことは一度もなかった。
どうして、こんなところに…?
最初、私は監視員が連れてくる部屋を間違えたのかと思った。
しかし、間違えたのではなかった。
「入れ」
顎をしゃくって、監視員は応接室に入るように言った。
監視員に逆らうことなど思い付きもしない私は、言われた通り中に入った。
そこには、二十代後半くらいに見える、優しそうな女性がいた。
私はその人を見て、呆気に取られた。
お母さん、と呼びそうになった。
それくらい、死んだお母さんにそっくりだったから。
「こんにちは」
その女性は、私を見てにっこりと微笑んだ。
その笑顔は、やはり死んだお母さんに似ていた。
この人は、一体…。
「ありがとう、あなたはもう下がって良いわ」
お母さんにそっくりなその人は、私をここまで連れてきた監視員にそう言った。
監視員にこのような命令口調で話す人を見るのは初めてで、この人、こんな口調で喋って、殺されるんじゃないか、なんて検討違いなことを考えてしまった。
監視員は、黙って一礼して、その場を去った。
あの、いかなるときも威張り散らしている監視員を、たった一言で黙らせる人がいるなんて。
あまりにも新鮮で、私は呆然と立ち尽くしてしまった。
それよりこの人は、一体誰なんだ。
何で監視員に命令出来る?
何より…どうしてこの人は、こんなにもお母さんに似てるんだろう?
「…驚いているようね」
彼女は、私を見てそう言った。
「それに、姉さんの面影がある…。やっぱり、姉さんの娘なのね」
「…姉さん…?」
姉さんって…一体誰のこと?
もしかして…。
「私は、あなたの叔母。あなたのお母さんの妹なのよ」
あまりにも突然の邂逅に、私は運命的な何かを感じずにはいられなかった。
ここでは、監視員に呼ばれるということは、何かしらの懲罰が待っていることを意味する。
それが事実だろうと、冤罪だろうと関係ない。
監視員が懲罰に値すると判断すれば、懲罰を受けなければならないのだ。
懲罰を受けるようなことをした覚えは、全くない。
でも、前にも言ったように…食堂婦である私は、仲間内から謂れのない密告を受けてもおかしくない。
呼び出しを受けた私が硬直しているのを見て、同室の仲間達は、馬鹿にしたように笑った。
あんた、一体何をしたの?と。
私の記憶が正しければ、咎められるようなことは何もした覚えがない。
内心脅えながら、私は急いで監視員のもとに走った。
遅れれば、余計懲罰が重くなってしまう。
「ついてこい」
「はい…」
監視員に連れられ、私はきっと、懲罰室に向かうのだろうと思っていた。
そこには拷問用の器具があって、私を尋問する監視員が何人か待っているのだろう、と。
そして確かに、連れていかれた部屋には、私を待っている人がいた。
でも、その部屋は懲罰室ではなかった。
更に、そこで待っている人は、私を尋問する監視員でもなかった。
「…?」
そこは、収容所にやって来た客人を通す為の、応接室だった。
私達囚人には、全く縁のない部屋だ。
長年収容所にいる私でも、入ったことは一度もなかった。
どうして、こんなところに…?
最初、私は監視員が連れてくる部屋を間違えたのかと思った。
しかし、間違えたのではなかった。
「入れ」
顎をしゃくって、監視員は応接室に入るように言った。
監視員に逆らうことなど思い付きもしない私は、言われた通り中に入った。
そこには、二十代後半くらいに見える、優しそうな女性がいた。
私はその人を見て、呆気に取られた。
お母さん、と呼びそうになった。
それくらい、死んだお母さんにそっくりだったから。
「こんにちは」
その女性は、私を見てにっこりと微笑んだ。
その笑顔は、やはり死んだお母さんに似ていた。
この人は、一体…。
「ありがとう、あなたはもう下がって良いわ」
お母さんにそっくりなその人は、私をここまで連れてきた監視員にそう言った。
監視員にこのような命令口調で話す人を見るのは初めてで、この人、こんな口調で喋って、殺されるんじゃないか、なんて検討違いなことを考えてしまった。
監視員は、黙って一礼して、その場を去った。
あの、いかなるときも威張り散らしている監視員を、たった一言で黙らせる人がいるなんて。
あまりにも新鮮で、私は呆然と立ち尽くしてしまった。
それよりこの人は、一体誰なんだ。
何で監視員に命令出来る?
何より…どうしてこの人は、こんなにもお母さんに似てるんだろう?
「…驚いているようね」
彼女は、私を見てそう言った。
「それに、姉さんの面影がある…。やっぱり、姉さんの娘なのね」
「…姉さん…?」
姉さんって…一体誰のこと?
もしかして…。
「私は、あなたの叔母。あなたのお母さんの妹なのよ」
あまりにも突然の邂逅に、私は運命的な何かを感じずにはいられなかった。