神殺しのクロノスタシス1
で、俺達の目的は、このシェルドニア王国の調査ではない。

観光で来た訳でもないし、引っ越してきた訳でもない。

シェルドニアの国民には気の毒だが、この国がこんな横暴な制度を敷いているのは、それはシェルドニアの問題であって。

余所者のルーデュニア聖王国国民の俺達は、さっさと用事を済ませて、さっさと自分の国に帰りたい。

その為には、早いところ『禁忌の黒魔導書』を探したいのだが…。

「…何処にあんの?禁書…」

「さぁ…。それが分かったら苦労しないって言うか…」

「…」

こんな窮屈な国では、禁書探しもままならない。

正直、俺もシルナもお手上げ状態だった。

大体、市内をちょっと移動するだけでも、やれ許可証だ、やれ通行証だを求められ、バスにも乗れやしない。

仕方ないから、もう魔法で姿を消して移動するしかないのか。

それは最終手段のつもりだったのだが?

魔導師だからって、何でも魔法で解決する趣味はないぞ。

大体闇雲に探して、それで見つかれば苦労しない。

やっぱり、何か手掛かりがないと…。

禁書の気配を少しでも辿る為に、探知魔法を使って調査はしているのだが…。何も引っ掛からない。

「ここまで気配を察知出来ないってことは、以前のエクリプスのように、人間に紛れてるか…姿を隠してるんだろうね」

と、シルナ。

あぁ、エクリプス…。そういえば、最初は人間の振りをして近づいてきたんだって、無闇が言ってたな。

人間の振りをして気配を隠しているのなら、そりゃ探知魔法に引っ掛からないのも頷ける。

「じゃあ、禁書が自分から尻尾を出すまで、俺達はこの窮屈な国で、窮屈に過ごすしかないってこと?」

「一応…そうなるかな…」

うわぁ。

「嫌過ぎる。シルナ、パス」

「パスじゃないよ。君もここにいるんだよ」

「俺一人で帰るから、後のことは宜しく」

「やめてよ。私だって一人は嫌なんだから!一緒にいて!」

この野郎。寂しがり屋かよ。

正直マジで嫌だから、切実に帰りたいんだけど。

でも、帰ったところで、シルナがゲヘゲヘ言いながら、チョコレートを貪るところを見せられるだけだし。

それに比べたら、まだシェルドニアにいる方がマシなのかもしれない。

俺は溜め息をついて、シェルドニア王国に在留することを決めた。








…しかし、意外なことに…禁書が尻尾を出すのは早かった。





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