神殺しのクロノスタシス1
当時の私は、学院長でも何でもなくて、単なる一魔導師だった。

とある理由で旅をしていた私は、ある街で、こんな噂を聞いた。

「ルーデュニアの端にある小さな村に、鬼の子がいる」と。

最初は単なる噂だと聞き流していただが、偶然泊まった宿の、おしゃべりな女将さんが、こんな興味深いことを口にした。









「あんた、『鬼の忌み子』を知ってるかい?」

「『鬼の忌み子』…?」

それが何を指すのか、あのときの私には分からなかった。

「峠の先の小さな村にね、いるんだって。その忌み子が」

「はぁ…」

それどころか、女将さんのその噂話にも、興味がなかった。

正直、こんな話はどうでも良かった。

しかし、女将さんの次の言葉で、私はその噂話の真偽に興味が沸いた。

「あんた、何でその子が『鬼の忌み子』って呼ばれてるか知ってるかい?」

「さぁ…」

「…それがねぇ、殺しても死なない子らしいよ」

女将さんは、声を潜めて、私の耳に顔を近づけるようにして言った。

…殺しても死なない、だと?

「本当なんですか?殺しても死なないって…」

もし、それが本当なら…。

私が興味を持ったのが嬉しかったのか、女将さんは少し表情を明るくさせて、楽しげにこう続けた。

「本当らしいよ。首を絞めても、心臓を刺しても、挙げ句頭を切り落としても、死なないんだって」

それで、『鬼の忌み子』…。

首を絞めても頭を落としても死なない。それが本当なら、成程、確かに鬼子だ。

「その子は…その峠の向こうの村にいるんですか?」

「死んでないんだから、いるんでしょうね」

「…」

私は、瞬時に考えを巡らせた。

単なる噂が一人歩きしただけの可能性も、当然ある。

でも、その噂が本当なら…。

私は、目的の為に一歩近づくことが出来るかもしれない。






翌日には、私は峠を越える道を歩き始めていた。






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