神殺しのクロノスタシス1
とにかく、その青年の一件で、村人はすっかり私のことを信用してくれた。

村の村長とも酒を酌み交わすほどになり、ここが勝負と思って、私は更に深く尋ねてみることにした。

「他に、何か困っていることはありませんか?何でも力になりましょう」

「…うむ…」

真っ白な髭をたっぷりと蓄えた村長は、しばし唸って、それからこう切り出した。

「…あんたは医者だと言うが、医者は人の命を助ける者だろう?」

「えぇ、そうですね」

「なら、逆に命を奪うことも出来るんじゃないか?」

…来た。

「どういうことです?」

「実はうちの村に、殺しても死なない化け物がいるんだ」

…本当にいたのだ。

『鬼の忌み子』が。

「殺しても死なない…?」

「あぁ。今まで、あらゆる方法を試した。首を絞め、水に浸け、心臓をくり貫き、毒草を飲ませ、挙げ句頭も切り落としたが、一向に死なない。あれは化物だ。鬼の子だ。鬼の化身なのだ」

…鬼の…。

「おまけに、妙な力を使って村人を襲いもした。あんなものを、村に置いておくことは出来ん。皆があれに怯えている。今すぐにでも殺してしまいたい」

「成程…。それが本当なら、さぞやお困りでしょう。それで、その子は今、何処に?」

「家の座敷牢に閉じ込めておる」

村長は、夕飯のメニューでも提案するように、さらりと言ってのけた。

「…会わせてもらえますか?あなた方の力になりましょう」

「頼む」

にこやかに微笑む振りをしながら。

私の心は、氷のように凍てついて、冷静だった。
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