神殺しのクロノスタシス1
連れていかれたのは、陽の光の届かない、暗く、冷たい座敷牢だった。

上の居間で、『鬼の忌み子』の両親にも会ったが。

彼らは、化け物である我が子に、酷く冷徹だった。

「あの鬼子を何とかしてくれるのかい」

母親は吐き捨てるようにそう言った。

親でさえ、鬼子と思っているようだ。

座敷牢に入るには、物置の床板を外し、そこから梯子を使って地下に降りなければならなかった。

食べなくても死なない身体なので、食事すら与えていないらしい。

それどころか、水の一滴も与えていないとか。

それでも死なないのだから、確かに化け物と言えるのかもしれない。

だが、それを言うなら、私も同じだ。

地下に足を踏み入れると、ぞっとするような光景が広がっていた。

辺り一面埃まみれ、荒れ放題だった。

何より、地上とは違う、地下特有の異様な雰囲気が広がっていた。

正気の人間がこんなところに来れば、ものの数分で気が狂うだろう。

それほどに、異様な空間だった。

その空間の一番奥に、分厚い鉄格子があった。

鉄格子の向こうに、何かがいた。

「…君が、鬼子?」

「…」

誰一人、実の親でさえ近づかない、この座敷牢に。

その鉄格子の前に、私は躊躇いなく歩みを進めた。

近寄ってみてから、その鉄格子の向こうに、生き物がいることが分かった。

埃と垢にまみれた髪。

涙の痕が残る頬。

あどけない、疑うことを知らない無垢な瞳。

そして。

「…私が、君を助けてあげよう」




鉄格子の中に、私が差し出した手。

鉄格子の向こうから、鬼が伸ばした手。

その手が触れ合ったとき。





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