神殺しのクロノスタシス1
外に連れ出すなり、私は鬼子を連れて村の外に出た。

この子を回収した以上、こんな村に用はない。

村人は、厄介者を追い出すことが出来たと喜んでいるようだった。

この子が生まれ故郷の村に戻ってくることは、もう二度とないだろう。

事実、この子が村に戻る前に…村そのものが、飢饉によって滅びたと、後で聞いた。

この子がいなくなった、その翌年のことだったらしい。

皮肉な話だ。

それはともかく、私は鬼子を連れ出して、まず最初にしたことは。

この子を身体を、綺麗に洗ってあげることだった。

このままじゃ、埃と垢にまみれて、性別もよく分からない。

「…君は、男の子?」

「…」

「それとも女の子なのか…。まぁ、どちらでも良いけど…」

「…」

鬼子はぼんやりと私を見つめるばかりで、何も返事をしない。

まるで、喋ることを禁じられているかのようだ。

…まぁ、静かだから良いか。

性別なんて大した問題でもない。

「…名前は?」

年齢も性別もどうでも良いが、呼び名がないのは少々困る。

自分の名前を、この子は答えられるのだろうか。

そもそもこの子に、名前はあったのだろうか。

村で聞いてくれば良かったかな。

私が適当な名前をつけても良いけど。

「…」

案の定、鬼子は何も答えずに俯いた。

名前…知らないのか、元々ないのか…。

仕方ない。

「…なら、君は今日から二十音(はつね)だ」

大した意味があった訳ではない。

ただ、世界に数多の福音をもたらす存在であれ、という望みを込めただけだ。

「…」

ぼんやりした顔をしていたのに、名前を与えた瞬間、鬼子…改め、二十音は、ハッと顔を上げた。

今初めて、息を吹き返したかのように。

「君の名前。二十音。良いね?」

「…」

何も答えない二十音は、返事の代わりに俯いていた。

無愛想と言うよりは…どう返事をしたら良いのか分からないのだろう。

まともに教育すら受けていないのだから、無理もない。

「…これは、面倒なことになりそうだな」

器に相応しいと思って、この子を引き取ったのは良いが。

これは、調教に時間がかかりそうだ。

まぁ…問題ない。

素質…すなわち、魔導適性は、見たこともないくらいに高いのだ。

一目見ただけで分かる。

この子は、魔導師として天才的な素養を持っている。

殺しても死なないのはその為だ。

保有魔力が多過ぎて、ただの刃物で切り刻む程度では、傷つけたそばから身体が修復してしまうのだ。

こんなに高い魔導適性を持った人間にを見るのは、私も初めてだ。

「…だからこそ、器に相応しい」

羽久にも、シュニィちゃん達にも、口が裂けても言えないが。

私が二十音を引き取ったのは、善意ではない。

むしろ、悪意からだったのだ。
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