神殺しのクロノスタシス1
二十音と共に旅を始めて、半年がたつ頃。

夜通し歩き続けた私達は、夜が明けてから、広い野原に流れる小川のほとりで、しばし休憩していた。

すると。

「…ん…」

目を覚ましてから、私は自分がいつの間にか眠ってしまっていたことに気がついた。

そして、もう一つ。

起き上がると同時に、隣に二十音がいないことにも気がついた。

「…!?」

この半年、あの子が私の視界から勝手にいなくなることは一度もなかった。

まさか、私が眠っている間に逃げたのか。

そんなはずは。あの子に、そんなことが出来るはず…。

「…あ」

辺りを見渡して、私は二十音が、少し先で原っぱに座り込んでいるのを見つけた。

あんなところに…。

とりあえず、逃げ出したのではないことが分かったので、良かった。

「二十音」

名前を呼ぶと、二十音はくるりと振り向いた。

その手には、シロツメクサの花を何本か握っていた。

あんなものを、どうして…。

「何をしてるの?こっちにおいで」

嫌がるかと思ったが、手招きすると、二十音は素直にこちらに戻ってきた。

恐らく、私が眠ってしまってつまらないから、一人で遊んでいたのだろう。

あるいは、単にシロツメクサの花が気になっただけなのかもしれない。

しかし。

「…ん」

二十音は、手に握っていたシロツメクサを私に差し出した。

…え?

差し出された数本のシロツメクサに、私はぽかんとしてしまった。

…私に渡そうとしてるのか?

「…」

おずおずとシロツメクサを受け取って、私は二十音の意図を図りかねて、二十音の顔をじっと見つめた。

この無邪気な目を見るに…何か魂胆がある訳ではなさそうだ。

なら…何で私に花を?

好意で渡してくれた…ということなのか?

花なんてもらった記憶がなくて、私はどうして良いのか分からずに、戸惑ってしまった。
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