神殺しのクロノスタシス1
合宿初日から、泣きそうな教官責任者。シルナ・エインリーである。

あまりにズケズケ言われ過ぎて、私は半泣きで打ち合わせを済ませた。

イレースちゃんは何処までも事務的で、立場上私の意見を立ててはくれたけど。

本人の言った通り、本意ではないのが見て取れた。

そしてこのときになって、私はこのイレースちゃんが、自分とは全く正反対のタイプであると知ったのだった。

「…では、打ち合わせは以上ですね。私は自分の部屋に戻ります」

和やかな雑談の一つもなかった。

話を終えるなり、イレースちゃんはさっさと会議室を出ていってしまった。

…泣きたい。

「…羽久~…」

「…ったく、情けない学院長だよ。でもまぁ…気持ちは分かる」

私は、イレースちゃんが会議室を出るなり、ずっと黙って傍で聞いていた羽久に泣きついた。

今回ばかりは、羽久も私を慰めてくれた。

「完膚なきまでに叩きのめされたな」

「クッキー食べてもらえなかった…。羽久、代わりに一緒に食べて」

「…ショックなのはそこかよ…」

だって。

一緒に食べながら話そうと思って、王都から持ってきたんだよ?

私はこのクッキー缶をどうしたら良いんだよ。

「あんなキツい子とは思わなかった…」

「シルナとは正反対のタイプだよな…。まぁ、でもあの子の言うことも一理ある。俺達はここに、生徒の指導をしに来たのであって、呑気にクッキー缶差し出して『食べよ~』なんて言われたら、そりゃ確かにイラッとするのも分かる…」

「あー美味しいな~。羽久もどーぞ」

聞こえない聞こえない。

私だって、生徒の指導に来たことは分かってるよ?

でも、それはそれ、これはこれでしょ?

クッキー美味しいし。

「もしかしたら、あの子がラミッドフルスの鬼教官なのかもな」

「…鬼教官?」

何それ?怖い。

「さっき、廊下でラミッドフルス魔導学院の生徒が話してるのを聞いたんだよ。今回ラミッドフルス魔導学院から来た教官、めちゃくちゃ厳しくて、生徒から恐れられてるんだって」

「…そうなんだ…」

いかにも、って感じの子だった。

何と言っても、私を半泣きにさせたんだからな。

「おまけに、体罰も平気でやる教官らしいよ」

「…」

それを聞いて、私は眉をしかめた。

…厳しいだけなら、まだ分かる。

生徒にとっては、時にそういう教師も必要だろう。

優しいだけでは生徒は大成しない。それは理解出来る。

でも、体罰とはどういうことか。

人を叩いて、殴って言うことを聞かせるのは、教育ではない。

教育とは正反対の行為だ。

そんなの、ただの暴力じゃないか。

「…本当なの?噂じゃなくて?」

「あの教官、ラミッドフルス魔導学院から来たんだろ?そのラミッドフルスの生徒が言ってたんだから、事実なんじゃないの?」

「…大袈裟に言ってるだけなら良いんだけど」

殴る蹴るじゃなくて、怒るときに物を投げたり、壁を叩いたりするだけなら、まだ。

それだけでも充分酷いと思うけど、まだ許容範囲だ。

でも本当に、直接生徒を殴ったり、叩いたり、暴言を吐いたりしているのなら…。

…それは、看過することが出来ない。
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