神殺しのクロノスタシス1
「…」

「…えっと…」

…引いた?

引いたよな?これはドン引きの沈黙だよな?

泣きたい。

わ…俺だって、死ぬほど悩んだのだ。

何で自分はこうなのか。

昔から、ブロックやミニカーよりも、お人形遊びがしたかった。

ズボンよりも、スカートを履きたかった。

おかしいと思ったのは、多分三歳くらいのとき。

自分は自分を女だと思っているのに、何故か周りが自分を男として扱っていることに気がついた。

自分は女の子なのに、何で?

私は女の子だよ、だからお人形遊びがしたいし、スカートも履きたい、と。

そう言いたかった。

でも言えなかった。

私の家は、このルティス帝国でも有数の貴族、アルヴァール家の血筋だった。

エガルテ・シーア・アルヴァール。

それが、「俺」の名前。

男の名前だ。

でも「私」の名前は違う。

私の名前は、エヴェリカ。

エヴェリカ・シーア・アルヴァール。

私の身体の中には、この二人が共存しているのである。

私は、自分をずっと女だと思って生きていた。

でも、周囲は私を男として扱う。

私はアルヴァール家にとって、待望の男児だった。

アルヴァール家に生まれたのは、姉が二人と、私の後に妹が一人。

私一人だけが、男だった。

唯一の跡取りとなり得る私を、アルヴァール家の皆は王子のように大切に育ててくれた。

期待をかけ、愛情を注ぎ、父自ら跡取りとしての心構えを説いた。

皆が私を跡取りとして、大事にしてくれているのに。

私は女です、とは…とてもではないが、言えなかった。
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