神殺しのクロノスタシス1
こうして、私は周囲の期待を裏切らない為に、女の心でありながら、男として振る舞った。

正直、とても不満だった。

私はれっきとした女なのであって。そりゃ確かに身体は男なのだけど。

男として扱われるのは嫌だった。不満だった。

大事にしてくれるのは、男としてのエガルテであって。

本当の自分、女であるエヴェリカではないのだと思うと、悲しかった。

だけど、本当の自分なんて…絶対に明かす訳にはいかなかった。

こうして私は、女である自分を隠し、男として振る舞い続けた。

だけど、心の中では。

いつでも、女としての自分が声をあげていた。

私は女なんだ、と。

女の子として生きたいんだ、と。

それなのに、身体は男のものなのだ。

自分は異常なんじゃないかと、何度思ったことだろう。

身体は男なのに、自分は女だと思ってる。

もしかして、自分が間違っているのではないか。

何度もそう思って、私は「自分は男なのだから。ちゃんと心も男でなければならないのだ」と自分に言い聞かせた。

殊更に男っぽく振る舞って、男の子らしい遊びを楽しむ振りをして、自分が男だと思い込もうとした。

でも、やっぱり駄目だった。

どんなに男だと思い込もうとしても、私は女だった。

女としての自分を、騙すことは出来なかった。

そんな自分を、ずっと異常だと思っていた。自分は生まれてくるのを間違えてしまったのだと。

性同一性障害、性別違和という言葉を知ったのは、ある程度大きくなってからだった。

学校の道徳の時間に習ったのだ。

心と身体の性別がちぐはぐになるという病気…もとい、障害は、実はそう珍しくはないということ。

他にも自分と同じように、心と身体の性別の違いに悩んでいる人がいるのだということ。

何より、これは生まれつきのもので、私が何か間違えたからこうなったのではないということ…。

それらを知って、私は心が楽になった。

と同時に、私の心は女のままで良いんだ、とホッとした。

しかし。

人知れず安心していた私の、隣の席にすわっていた男子生徒が。

授業の後、笑いながらこう言った。

「さっきの授業ってさぁ、要するに『オカマ』ってことだろ?」

「『オネエ』じゃね?」

「どっちにしても、気持ちわる~い」

こう言われたとき。

正直私は、度肝を抜かれた。
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