神殺しのクロノスタシス1
髪は短いし、顔も体格も男のものだから、どう見ても男が女装しているようにしか見えない。

それでも、私は感動した。

なんて可愛い服なんだろう。

なんて綺麗な服なんだろう。

どうして私は、こんな服が似合う女の子として生まれられなかったんだろう。

もっと可愛い格好をしたい。もっと可愛い格好をして、男のエガルテじゃない、女の子のエヴェリカとして街を歩いてみたい…。

色んな思いで一杯になって、私はしばし、鏡の前で自分の姿をじっと見つめ続けた。

朝になって、服を脱がなければならなくなったときは、寂しい思いをしたものだ。

そして、絶対に見られないよう、鍵つきのクローゼットの奥に、女物の服達をしまい込んだ。

あれからというもの、私は徐々に女物の服を増やしていった。

店頭で買うのはやはり、ハードルが高かったので。

通販の匿名配送を利用することにした。

家族や使用人には、「俺宛の荷物は絶対に開けないで」と言い含めておいた。

一応私は、年頃の男子ということになるので。

変な風に気遣われたらしく、「はいはい分かってる分かってる」と、苦笑しながら了承してもらえた。

そういうものを頼んでる訳ではないのだけど。

でも、お陰で荷物を開けられずに済んでいる。

最初は服だけだったが、段々と小物や、ウィッグ、化粧品なども注文するようになった。

ウィッグをつけてメイクをすると、ぐっと女らしくなった。

男っぽい顎のラインや、隠しきれない体格なども、メイクやコーディネート次第で、だいぶマシになると気づいた。

そして、夜中にこっそり楽しむだけだなく、外に出始めるようになったのが、二ヶ月ほど前のこと。

お洒落をすると、やはり、今度は外に出たくなる。

思いっきり可愛い格好をして、外に出たい。

私はその思いを抑えきれず、こうして女装をして、メイクをしてウィッグをつけて、外に出るようになった。

最初に外に出たときは、本当に緊張した。

本当は男が女装しているだけなのだとバレやしないか、気が気ではなかった。

でも、私の女装技術はだいぶ上達していた。

幸い、男の身体であると気づかれることなく出掛けられた。

本当に新鮮で、楽しかった。

女の格好をしていたら、ブティックに入っても、「男がブティックに来てる」とじろじろ見られずに済むのだ。

堂々と女物の服を購入することも出来る。

何より、本当の…心の性別のままに過ごすことが出来る。

演技する必要はない。それだけでも、心が楽になった。

近くの商業施設だと、近所の人やクラスメイトに見られるかもしれないと思ったから、わざわざ電車に乗って、遠くまで来ていた。

それなのに。

こうして今、クラスメイトにバレてしまってるんじゃ、救いようがない。
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