神殺しのクロノスタシス1
こうして、一緒に付き合わされた、エヴェリカ曰く「ずっと入ってみたかった店」。

それは、予想以上にハードルの高い店だった。

敷居が高いとか、そういうアレじゃない。

ところで皆さん、ゴスロリってご存知だろうか。

突然何の話だ、と思っただろうね。

ゴシックロリータの略なんですけど。

エヴェリカに連れてこられたのは、そのゴシックロリータなお店。

ゴスロリ服専門店、だった。

まさか、人生でこんな店に入る機会があるとは。

長生きはしてみるもんだ。

一生知りたくなかった世界だった。

しかもそのゴスロリ専門店、服という服何もかもが真っ黒で、ふりんふりんなゴスロリ服が所狭しと並んでいる。

いかにも魔女っぽいと言うか…。コスプレにしか見えないんだが…。

この服を見てみたかったのか?

しかも超たけぇ。庶民には手が出ないよこんなの。

こんなに高いのか。ゴスロリ服って。

大体いつ着るんだ?こんな服。

こんなもん、普段着て歩くような奴がいるはずが…。

と、思ったら。

「うふふ、ルルシー。ここが俺の展開するゴスロリ専門店ですよー。やっぱり時代はゴスロリですよね~」

「あ、そ…。良かったなルレイア…」

「おっ、見てください。時代を先取りしたゴスロリファンがまた一人、増えてますよ。良いですね~。素晴らしいですね!」

「そんな時代が来るとしたら、俺は嫌だけどな」

…いた。

ゴスロリ服を平然と着こなした、しかも男が。

今、俺の展開するゴスロリ専門店、って言わなかった?

あの人の店なのか?

「なぁ、エヴェリカ。気持ちは分かるけどこの店はちょっと…」

なんか一周回って怪しいから、出た方が良いんじゃないかと思ったが。

「…可愛い…このワンピース、凄く可愛い…。こっちのブラウスも…」

…駄目だ。目移りしてらっしゃる。

そりゃ可愛いけどさ…。着れないよこんな、

「あなた良いセンスしてますね!」

「うわっ!びっくりした」

このゴスロリ専門店の社長らしき、ルレイアとかいうゴスロリ人が、横から割って入ってきた。

しかも、目をきらんきらんとさせて。

「ゴスロリの良さが分かるなんて、あなた素晴らしいですよ。ゴスロリの素質アリですね!おめでとうございます!」

何がめでたいのか、さっぱり分からないんだけど。

こんなに嬉しくない褒め言葉が、他にあるだろうか。

しかしエヴェリカは、まんざらでもない様子。

お前はそれで良いのか。

すると。

「おいこら、ルレイア!いきなり知らない人に話しかけるんじゃない」

オーナーさんの知り合いらしき人が、オーナーを止めに来た。

あんたはまともなんだな。

「だってゴスロリ信者がまた一人、増えそうなんですよ?ここはしっかり布教しておかないと」

「布教せんで良い。ったく、放っとくとお前はすぐ変なことに首突っ込むんだから…。ほら、もう帰るぞ」

「いやんルルシー。えっち!」

「何処がだ!」

オーナーの相方は、オーナーの腕をむんずと掴み、ずるずると店の外に連れていった。

…何だったんだ、あの二人組は…。
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