神殺しのクロノスタシス1
「折角貴族の嫡子として…大事にしてくれてるのに…。実は心は女だなんて、とても言えないよ」

それはそうかもしれないけど…。

「そのまま流されて、男として生きていくのか?」

「…」

「女なのに女と結婚して、子供も作る?」

「…分からない。でもこのままだと、そうなるのかもしれない」

…このまま何も言わなければ、実際そうなるだろう。

性的指向が男なのなら、そもそも子供が出来るのかどうかも怪しいけど。

「いつかはカミングアウトしようと思ってるんだよ。でも…」

…その勇気が出ない、か。

そりゃ無理もない。

学校でも、あれだけキャラ作ってるんだもんな。

「本当は男子校になんていたくない。私は女なんだから。髪を伸ばしたいし、女物の服を着たい」

「…うん」

「でもその気持ちを、受け止めてもらえるとは思えない」

「何で?」

本当にエヴェリカの両親が、エヴェリカのことを愛しているのなら。

受け止めてあげるのが筋ってもんじゃないのか。

エヴェリカが悪い訳じゃない。これは生まれつきのものなのだ。

自分では、どうしようも出来ないことだ。

「…無理だよ」

「だから、それは何で?」

「サナキ君。君は本当に優しいんだね。ありがとう」

エヴェリカは、ふっと笑ってそう言った。

…あ?

「でも世界には、そんなに優しい人ばかりじゃない。『オカマ』とか、気持ち悪いとか、可哀想とか…。そういうことを言う人がいるんだよ」

「…」

…そうか。

エヴェリカが言うと…説得力が段違いだな。
< 565 / 669 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop