神殺しのクロノスタシス1
sideシルナ
─────…『禁忌の黒魔導書』の気配を感じて、現場に駆けつけたときには。
既に、それはただの真っ黒な本になっていて。
そして、その傍らに羽久が座り込むようにして座っていた。
「…!?」
何事なんだ、これは。
どうやら、ずっと目をつけていたエヴェリカ…ならぬ、『禁忌の黒魔導書』は、倒したらしいが…。
「羽久、羽久しっかりして」
私は、羽久を必死に揺り起こした。
この子に何かあったら、私は…。
「う…ん…?」
羽久は、私に揺さぶられてゆっくりと目を開けた。
いや、羽久かどうかは分からない。もしかしたら、他の人格が…。
「あれ…。シルナ…」
この子は、私をシルナと呼んだ。
二十音はしーちゃんと呼ぶし、未来ちゃんなら私を見るなり怖がるから、残るは…。
「羽久?ステラちゃん?」
「…羽久だよ」
あぁ、羽久なんだ。
良かった。話が早い。
「一体何があったの?禁書の気配を感じて来てみたら、君が倒れてるから…」
「禁書…?あ、そうだエヴェリカは?」
羽久は慌てて起き上がり、辺りを見渡して。
そして、既に封印された『禁忌の黒魔導書』を見て。
「…?何で?シルナが倒したの?」
「え?いや、私は今来たばかりだけど…」
「…」
「…」
羽久以外に、『禁忌の黒魔導書』を相手取ることが出来る人格は、一人しかいない。
「…前の俺か」
羽久が、ぽつりと呟いた。
前の…つまりは二十音のことだ。
そうか。あの子が出てくれたのか…。
あの子を前にしたら、禁書は手も足も出せなかっただろうな。
「…羽久は、何処まで覚えてる?」
「禁書…エヴェリカをここに呼び出して…。正体を暴いて…」
「…暴いて?」
「…」
何故か、羽久は私の顔をじっと見つめたまま、黙り込んでしまった。
「羽久。『禁忌の黒魔導書』と何があったの?」
「…何でもない。ちょっと、記憶が曖昧なんだ。正体を暴いたところまでしか覚えてない」
「…そう」
じゃあ…その後すぐに、危険を察知した二十音が出てきてくれたのかもしれない。
…そういうことにしておこう。
「…これで、この世界での用事は終わった。…帰ろうか、ルーデュニア聖王国に」
「あぁ…。後味の悪い事件だったな」
「本当にね」
突然失踪したエヴェリカ・シーア・アルヴァールのことを、彼を知る者はどう思うだろう。
人間としてこのまま生きていれば、彼は、帝国騎士として立派に暮らしていたのかもしれない。
だけど、その未来は…私達が、奪ってしまったのだ。
既に、それはただの真っ黒な本になっていて。
そして、その傍らに羽久が座り込むようにして座っていた。
「…!?」
何事なんだ、これは。
どうやら、ずっと目をつけていたエヴェリカ…ならぬ、『禁忌の黒魔導書』は、倒したらしいが…。
「羽久、羽久しっかりして」
私は、羽久を必死に揺り起こした。
この子に何かあったら、私は…。
「う…ん…?」
羽久は、私に揺さぶられてゆっくりと目を開けた。
いや、羽久かどうかは分からない。もしかしたら、他の人格が…。
「あれ…。シルナ…」
この子は、私をシルナと呼んだ。
二十音はしーちゃんと呼ぶし、未来ちゃんなら私を見るなり怖がるから、残るは…。
「羽久?ステラちゃん?」
「…羽久だよ」
あぁ、羽久なんだ。
良かった。話が早い。
「一体何があったの?禁書の気配を感じて来てみたら、君が倒れてるから…」
「禁書…?あ、そうだエヴェリカは?」
羽久は慌てて起き上がり、辺りを見渡して。
そして、既に封印された『禁忌の黒魔導書』を見て。
「…?何で?シルナが倒したの?」
「え?いや、私は今来たばかりだけど…」
「…」
「…」
羽久以外に、『禁忌の黒魔導書』を相手取ることが出来る人格は、一人しかいない。
「…前の俺か」
羽久が、ぽつりと呟いた。
前の…つまりは二十音のことだ。
そうか。あの子が出てくれたのか…。
あの子を前にしたら、禁書は手も足も出せなかっただろうな。
「…羽久は、何処まで覚えてる?」
「禁書…エヴェリカをここに呼び出して…。正体を暴いて…」
「…暴いて?」
「…」
何故か、羽久は私の顔をじっと見つめたまま、黙り込んでしまった。
「羽久。『禁忌の黒魔導書』と何があったの?」
「…何でもない。ちょっと、記憶が曖昧なんだ。正体を暴いたところまでしか覚えてない」
「…そう」
じゃあ…その後すぐに、危険を察知した二十音が出てきてくれたのかもしれない。
…そういうことにしておこう。
「…これで、この世界での用事は終わった。…帰ろうか、ルーデュニア聖王国に」
「あぁ…。後味の悪い事件だったな」
「本当にね」
突然失踪したエヴェリカ・シーア・アルヴァールのことを、彼を知る者はどう思うだろう。
人間としてこのまま生きていれば、彼は、帝国騎士として立派に暮らしていたのかもしれない。
だけど、その未来は…私達が、奪ってしまったのだ。