神殺しのクロノスタシス1
僕の人生において、一番古い記憶。

それは、王都セレーナから遠く離れた田舎にある、小さな安アパートで。

母親と、粗末な食卓を囲んでいる風景だった。

あれが、僕の人生の始まりだった。

あの頃は、本当に惨めな生活だった。

絵に描いたような極貧生活だった。

隙間風の入る安いアパートで、僕と母は二人きりで暮らしていた。

父親はいなかった。

僕の父親が誰なのか、僕は今になっても知らない。

幼い頃、僕の父親は何処にいるのか、と母に尋ねたことがある。

でも、返ってきたのは返事ではなく、平手打ちだった。

父親について尋ねることは、僕には許されなかった。

だから今でも、父が生きているのか、死んでいるのかも知らない。

今は、もう知りたいとも思わない。

母と二人きりで暮らしていた頃は、僕の世界は本当に、狭くて小さかった。

住んでいるアパートが、という意味ではない。

人が生きていく為には、多くの人間と関わらなければならないと言うが。

僕が接する人間と言えば、母以外、誰もいなかった。

先程も言ったように、父親がいなかった。

更に、他の親族との接点も全くなかった。

父のみならず、祖父母の姿を見ることもなかった。

祖父母に関しても、生きているのか死んでいるのか分からない。

そもそも、僕が存在していることすら、向こうは知らないのかもしれない。

母は自分の両親と、完全に関係を断っていた。

絶縁したのか、絶縁されたのかは知らない。

祖父母についても、母は何も教えてくれなかった。

僕の方も聞かなかった。

聞いても、答えてくれないことが分かっていたから。

とにかく、僕の世界は母と二人だけで完結していた。

保育園や、幼稚園にも行っていなかった。

母との生活が、僕の世界の全てだった。
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