神殺しのクロノスタシス1
僕のことはあれだけ放置しておいた癖に。

母は、新しく生まれた弟に対して、過保護なまでに面倒を見た。

これは、僕にとっても意外だった。

子供というのは、放っておいて育てるものだと思っていたから。

自分がそうされていたものだから、それが当たり前だと思い込んでいたのである。

このときは、さすがの僕も弟に対して嫉妬した。

赤ん坊の頃の僕は、絶対にあんな風には可愛がってもらえなかった。

泣こうが喚こうが、ずっと放置されていた。

放っておかれることに、慣れてしまっていた。

それなのに弟は、泣く度に構ってもらえるのだから。

そんな理由があるから、僕が弟を可愛がらないのも当然だった。

でも、両親はそのことに気づかなかった。

二人共、僕が同性の兄弟を得て、喜ぶと思っていたらしく。

きっと僕も弟を猫可愛がりするものだと思っていたのに、可愛がるどころか嫌悪している。

母はそんな僕を「可愛いげがない」と言い、父はもっと楽観的で、「ある種の赤ちゃん返り」だと言った。

どちらも、とんだ的外れなのだが。

母は、幼い頃の僕に何をしたのか、今ではすっかり忘れているらしい。

親らしいことは何もせず、放ったらかしにしていたことも忘れている。

都合の悪いことは、何でも綺麗に忘れてしまえるらしい。

そんな事情があったから、僕は弟を可愛がることが出来ず、そのせいで両親とも上手く馴染めなかった。

新しい家は、相変わらず自分の家のような気がしなかった。

その一方で救いだったのは、学校だけである。
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