神殺しのクロノスタシス1
その夢に翳りが見えてきたのは、弟が二歳になった頃。

ある日家に帰ると、両親が深刻そうな顔をして向かい合っていた。








一体、何があったのか。

ただ事ではないということは、僕にも分かった。

でも、尋ねることすら出来ないほど深刻そうな表情で、僕は「何があったの?」とは聞けなかった。

聞けるような雰囲気じゃなかった。

後になって、両親が話をするのを聞いたところによると。

弟に、発達の遅れが見られると言われたらしい。

思えば、弟はもう二歳になっているのに、言葉の一つも発しなかった。

話しかけても振り向かないし、そもそも目も合わせてくれない。

普通の二歳児なら出来るはずのことが、弟には出来なかった。

両親共に弟をあまりに猫可愛がりしていたものだから、二人共、弟の発達が遅れていることに気づいていなかった。

自分の子が、他の子とは違うなんて…二人には、思ってもみないことだった。

病院で、この子はちょっとおかしいのかもしれない、と言われて、初めて気がついたのだ。

そういえば、この子はもう二歳なのに、パパもママも言わない。

意味のある言葉を発したことが、一度もない。

目も合わせてくれない、気に入った玩具でしか遊ばない。

何が気に入らないのか分からない理由で、パニックでも起こしたかのようにいつまででも泣き叫ぶ…。

時には、自分の頭をぽかぽか殴りながら癇癪を起こすことさえあった。

両親は今まで、「ちょっと我が儘な子」くらいにしか思っていなかったらしい。

通常児でも、幼いとき発育がちょっと遅れ気味の子なんて、いくらでもいる。

自分の子が異常だなんて、とんでもない。

そう思っていた二人に、小児科の医師から発育の遅れを指摘され、初めて現実に直面したのだ。

そのときはまだ、もっと専門的な機関への受診を勧められただけだった。

しかし後日、大きな病院の専門科で検査を受けたところ。

弟には、大きな知的の遅れがあると診断された。

その日を境に、我が家はまたしても様相を変えることになる。
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