神殺しのクロノスタシス1
やがて、母のお腹の中の子供が生まれた。

今度は、女の子だった。

両親共に、初めての女の子にとても興奮した。

そして、今度はその妹を、弟の代わりに猫可愛がりし始めた。

まるで、僕と弟は最初から存在していなかったかのように。

母は初めての娘が嬉しかったのだろう、手縫いの可愛い洋服を着せ、人形やおままごと道具を買い与えた。

僕に対して玩具を買ってくれたことは、一度もないのに。

そして妹は、弟と違って健常児だった。

大きくなっていくにつれて、どんどん育てにくくなっていく弟に反して。

妹は愛想の良い赤ん坊で、発達も早く、お喋りで、おしゃまな女の子だった。

母も父も、どれほど妹を可愛がったか。

弟のときを上回るほどだった。

両親は、まるで僕達二人をいない者のように扱い、たった一人の娘だけを可愛がった。

弟には、明らかに専門的な療育が必要だった。

でも両親は、弟の為には最早何もしなかった。

弟は、普通の子より覚えるのがずっとずっと遅くて、覚えさせるには大変な労力と時間が必要だ。

それなのに、両親はそれを面倒と感じ、弟を少しでも自立させる為の努力を、何一つしなかった。

そして日常的な弟の世話を、全て僕に押し付けた。

妹が生まれてからも、それは変わらなかった。

もう悪阻はないし、体調は戻っているはずなのに。

なし崩し的に、僕に弟の面倒を押し付けてきた。

僕が弟のことを「何とかしなくては」と言っても、両親は面倒臭そうな顔をするだけだった。

かつて、あれほど大事にしていた弟に対して、この態度。

僕に弟の世話を任せておけば、二人は妹だけを可愛がることが出来るから、その方が都合が良かったのだろう。

だから僕が文句を言えば、鬱陶しいに決まってる。

両親からしてみれば、「お前は黙って、弟の世話をしてれば良いんだ」と、平気で思っていたのだろう。

その態度を見れば分かる。

口には出さなかったものの、間違いなく二人共そう思っていたはずだ。
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