神殺しのクロノスタシス1
何事にも、限度というものがある。

家の中でアイナを猫可愛がりするのは良いとして、人が来ているときくらいは、節度を守って欲しい。

というのも。

学院長と羽久さんが、我が家を訪ねてきたときのこと。



「わぁ~。アイナちゃん可愛いね~。大きくなったね~」

アトラスさんの腕に抱かれたアイナを見るなり、学院長がそう言って、アイナの頭を撫でるなり。

アトラスさんに、変なスイッチが入った。

「そうでしょう?うちのアイナは世界一可愛いんです。この間も…」

「…アトラスさん。やめなさい」

恥ずかしいから。娘自慢するんじゃありません。

「私お茶淹れてきますから、学院長も羽久さんも、座っててくださいね」

「ありがとうねー」

「お構い無く」

私がキッチンでお茶を淹れている、その間。

客間から、アトラスさん達が話す声が聞こえてきた。

「おとうしゃま、アイナ、クッキーたべる」

「あぁ、よしよし。ほら」

アイナに乞われるまま、アトラスさんはクッキーを食べさせているようである。

あまりお菓子を食べさせると、夕食を食べなくなるから、お菓子は控えさせるようにと、あれほど口を酸っぱくして注意しているのに…。

アイナに欲しいと言われたら、駄目とは言えないらしい。

全く…と思っていると。

「本当に可愛いね~、アイナちゃん」

「えぇ。可愛いんです」

どやぁ、と答えるアトラスさん。

少しは謙遜しなさい。

「それにしても、この間見たときは、まだ二語文も怪しかったのに…。もう普通に喋るようになってる」

と、羽久さん。

「でしょう?賢いんですよ。嫁に似たんでしょうね」

またあの人は…恥ずかしげもなくあんなことを。

少しは謙遜というものをしなさいと言ってるのに…。
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