神殺しのクロノスタシス1
入院中。

俺とシルナは、ベリクリーデの病室を訪ねた。

ベリクリーデだけは、一応まだ保護処置として、結界の張られた病室に寝ていた。

シルナの意向で、拘束や薬物投与などの処置は取られていない。

俺達と同じで、ただ寝かされているだけだ。

特別に許可をもらって、俺達はあれ以降初めて、ベリクリーデに会った。

「…元気そうだね、ベリクリーデちゃん」

「…学院長。羽久も。久し振り」

ベリクリーデは、意外なほどにあっけらかんとしていた。

彼女らしいと言えばらしいが。

「体調はどうかな?」

「んー…。悪くないよ。私は皆と違って、魔力を取られた訳じゃないし」

むしろ、光の『聖宝具』を身体に埋め込まれて、安定しているのではなかろうか。

「身体に、何か変化はある?」

「変化?そうだな…。いつも感じてた『神様』の気配が、なくなっちゃった」

「…そう」

…シルナの魔法によって、聖なる神はベリクリーデの奥深くに眠らされた。

二十音の中に、禍なる神が眠っているように。

「これって、良いことなの?私、ベリクリーデとして生きて良いの?」

「生きて良いに決まってるよ」

ベリクリーデが生きちゃ駄目なら、俺はどうなる。

真っ先に死ななきゃならないじゃないか。

「また、私達のもとに…イーニシュフェルト魔導学院に、戻っておいで。ベリクリーデちゃん」

「…戻って良い?」

「勿論だよ」

「…うん。じゃあ、そうする」

ベリクリーデは、微笑みを見せて頷いた。

良かった。

多少ならずとも困惑していたり、落ち込んだりしているんじゃないかと、シルナはずっと、気が気ではなかったのだ。

「学院長と羽久は大丈夫なの?」

「少しずつ魔力も回復してきてるし、そろそろ退院出来るよ。退院するときは一緒だね」

「そっか。良いね」

どうせなら、皆一緒に退院したいからな。

誰かを残して行きたくはない。

「それじゃあ、ベリクリーデちゃん。身体にまた何か異常があったら、何でも言ってね」

「うん」

そう言って、俺とシルナはベリクリーデの病室を後にした。
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